我儘な、男 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

我儘な、男




映画館へ行くことになった。

新しくオープンしたシネコンを、妻は見に行きたいのだと言う。

EP3の先行ロードショー。

その日に、上映されるはずだった。

あわよくば、観たい。



結局のところ、映画館を見学し、隣接するショッピングセンターを見て周り、帰宅した。

もし観たいのならば、レイトショーでも観に行ったら。

一言、妻は言ったのだった。





妻はその日、仕事があった。

娘を寝かし付けて、妻の帰宅を待った。


「レイトショー、観に行きたいんだけど、いいかな」

「こんな夜中に遊びに行くだなんて。そんなだったら、結婚なんかしなければよかったじゃない」


返す言葉がなかった。



そのとおりだと思った。

夜中に一人、映画を観に行くなんて、妻帯子供有り。そんな男のすることではない。

馬鹿げたことを、言ってしまった。

妻を働かせて、映画などと言っている俺は愚としか言いようがない。





布団の中で、まどろんだ。

眠れなかった。

結婚なんか、しなければよかったじゃない。

その言葉が、俺の頭の中で何度も繰り返されていた。


以前妻は、溜息とともに、俺にこう言った。


結婚なんてしなければよかった、と。


思っていることは、何でも言ってしまう。

それが妻であり、思ったことを決して口にしない。

それが、俺だった。


妻に何か要求したことなど、これまでにあっただろうか。

映画が観たい。

よく考えてみると、それが結婚して、初めて言った我儘だったかもしれなかった。