女々しい、男
以前、妻に触れたのは、いつの頃だったか。
思い出せない。
くすぐったいから。
そういって今日、妻は笑った。
泳ぎを教えることになり、体に触れた。
それだけだった。
抱きしめたい衝動に駆られながら、それに耐えた。
どんなに、腹を立てても、心の奥底では妻が好きなのだ。
女々しいものだ。
一発、妻の頬を張り飛ばすこともできない、怯弱な男。
帰りの車の中、ふと、妻が話し始めた。
なんでもないことを、話すことは殆どない。
いつもなら、必要に迫られた、必要な会話をするだけだ。
それが、今日は違った。
普通の夫婦なら、当たり前のような会話だった。
今日見て来たことについて、ただ話している。
これは、微かな変化なのか。
帰宅し、妻は娘と寝室へ行った。
娘が泣いている。
俺が寝室へ入ると、妻がひと言、眉間に皺を寄せて、大丈夫だからと言った。
完全に、拒絶されているわけではない。
もしもそうだとすれば、体に触れさせることすらしないのではないか。
そんなことを考えている、自分の女々しさに自嘲した。
今度、妻に触れるときは、頬に平手を打つ時かもしれない。
そう思って、また自嘲していた。