変な、奴
ショッピングセンターの中にある書店で、本を探していた。
村上龍の新作が面白そうだった。
とても買えはしない。
ブックオフに出回るまで、相当な時間がかかるのだろうか。
願わくば、図書館に収蔵されることを願った。
妻と娘の姿を探していたそのときである。
セーラー服姿の女性が、店内を徘徊している。
どこか、異質なものを感じた。
こちらに、近づいてくる。
その姿を、近くではっきりと認めた。
驚きと同時に、冷笑を誘った。
男であった。
「奴」は、周りの視線を気にするでもなく、歩きながら、指で本や雑誌を弾いたりしている。
短い髪も、男だとわかった後見ると、妙に納得できた。
妻に教えようかと、逡巡した。
そして、やめた。
3人で書店を、後にした。
俺は、また振り返り「奴」の姿を探していた。
恥ずかしくはないのか。
それとも、周囲の冷たい視線が快感だとでもいうのか。
前を向き、歩く。
「奴」が、現れた。
通路に立ち並ぶポットや家電を指で弾きながら、こちらに歩いてくる。
すれ違った。
妻は、気が付いていない。
俺は振り返って「奴」の後姿を見送った。
冷笑などではなく、拍手を送りたい気分だった。
何かに夢中になることは、よい事だ。
それが奇行であっても、他人に迷惑をかけなければいい。
かんばれ、若者よ。
俺は、心の中でエールを送っていた。
あんなものを見せられ、気分が悪くなるどころか、ちょっとだけ前向きになれる自分が可笑しかった。