倦怠感
疲れ果てていた。
何かをしようという、気が起きない。
ひょっとしたら、熱が出ているかもしれないと思ったが、測ろうという気も起きなかった。
寝床に横になり、じっとしていた。
外は曇り空だった。
開け放った窓から、灰色の空が覗いている。
晴れそうな兆しは、ない。
足音が近づいてきた。
妻である。
「お風呂も洗っていないし、犬の散歩も行ってないじゃない。何時だと思っているの」
頭から、水を浴びせられたような、そんな気分になった。
もうたくさんだった。
そう思ったが、言い返す気力は、すでになかった。
発作的に、窓から身を投じたくなった。
首を振り、馬鹿げた思いを振り払う。
2階である。
身を投じても、死ぬことはないだろう。
精々、足の骨を折るくらいのものだ。
ひょっとしたら、怪我すらしないかもしれない。
何をやっても、否定的な言葉しか返ってこなかった。
そして、文句を言う材料がなくなると、それが次第に些細なことにまで及んでいく。
普段は開け放たれたままの便座の蓋も、何故使い終わった後、閉じていないのと、がなり立てたりするのである。
俺がもし、完璧な夫になったとしても、妻は変わらないだろう。
俺の行動が気に入らないのではなく、俺という存在自体が気に入らないのだから。
妻の前から、姿を消す。
それが一番いい。
寝床に張り付いた体を引き剥がし、犬の散歩へ行った。
外へ出ても、倦怠感は消えなかった。