勝手にしやがれ
車の運転などしない。
朝からそう決めていた。
これだけ妻に蔑まれながら、白い羊のように、何でもはいはいと話を聞く必要もないだろう。
車の運転中が特に酷い。
狭い空間で、常に隣にいるのだ。
運転中、危ないだの、とろとろ走るなだの、停止線をオーバーするな、などと絶えず捲くし立てるのだった。
我慢にも、限度というものがある。
自室で、時を待った。
寝床に仰向けに寝そべって、目を閉じる。
そのまま寝てしまいそうになると、妻の足音が聞こえてくる。
俺は、跳ね起き、服を畳んでいるふりをする。
通り過ぎるのを確認すると、また寝転んだ。
出かける時間になると、俺を呼びに来る。
その時、言うことは決めていた。
俺が車の運転しても、隣でイライラするだけだろうから、自分で運転した方がいいよ。
俺は家で掃除でもしているから。
頭の中で、言葉を反芻した。
そそろそ、出かける時間だった。
妻は姿をみせない。
おかしい。
そう思っていたら、車のエンジン音が聞こえてきた。
さっきと同じように、俺は跳ね起きていた。
妻は自分で車を運転し、出かけて行った。
呆気にとられ、俺は一人、部屋の中で立ち尽くした。
腹が減っていた。
一緒に出かけないということは、飯は自分で調達することを意味する。
「勝手にしろ」
そう呟きながら、ハンバーガーが食いたいと思った。
3個食って300円。
高いのか安いのか、わからなかった。