怯懦 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

怯懦

風が心地よかった。



晴れてはいるが、雲が空を覆い、灰色に見える。

それでも、日差しは強かった。

遠くに見える、黒い山の稜線を、目を細めて眺めていた。



俺は、俺だ。

何故言えない。

いつもそう思い、そして自分を責める。

怯懦な性格を、情けないとも思う。

認めたくないものも含めて、俺なのだと思うしかないのか。



犬と散歩に出かけた。

苛立ちを、押さえ切れない。

つい、紐を強く引いてしまう。

眉根を寄せた、悲しげな視線を俺に向けてくる。

目を閉じながら、大きく息を吸って、細く、長く吐きだした。


すべてを受け入れる。

そして、自分を好きなる。

そこから、やさしい気持ちに、なれはしないか。

家に帰ると、妻と娘が出かける準備をしている。


娘を抱き上げた。

いつものように、ママがいいと首を振って泣いる。

妻から家事について、いくつか頼まれた。

なぜか、腹は立たなかった。

いつものように、心がざわついたりは、しない。



「じゃあね」

妻が言った。


「気を付けて」

俺は、言葉を返していた。



だめだなんて、考えないことだ。

そう思いながら、玄関を開けた。