音楽
頭が痛い。
朝目覚めて、最初に思ったことだった。
いつものように、不機嫌な妻がそこにいた。
「娘、看ていてよ」
苛立ちをぶつけているんだな。
なんとなく、そう思った。
吐き気を堪えながら、娘を看た。
いつものように、ママ、と言いながら泣き、妻のほうへ駆け寄っていく。
しばらくして、妻たちが出かけて行った。
俺はたまらず、トイレへ行き、吐いた。
水のようなものが、出ただけだった。
涙を拭いながら、頭痛薬を口へ放りこむ。
しばらく、じっとしていた。
肩から首、そして頭痛だった。
外は、呆れるくらいの晴天だった。
少しだけ、気分が良くなったような気がした。
雑用を済ませるため外出し、レンタル屋へ寄る。
音楽が聞きたかった。
一人の時は、ひと月に2枚くらいはCDを買っていた。
今は、レンタルである。
それも、毎月ではない。
「アンダー・ワールド」
車で聴いた。
心地よかった。
数年前までは、聴いていてすぐに飽きたものだ。
普通すぎると思っていた。
以前は、エイフェックス・ツインやスクエア・プッシャーのような、
複雑でとらえ様のない物に陶酔していた。
今は逆で、2,3曲で疲れてくる。
歳なのかもしれない。
いや、この歳でテクノというのもなかなかのものじゃないか。
一度だけ、ライブハウスへ行ったことがある。
ドラムンベース全盛で、行ったのものも、それだった。
酒を飲みながら、一晩中、体を揺すった。
踊ったと言うよりも、揺すったと言ったほうがいいような感じだった。
踊ること自体、初めてなのだった。
もう一度、行きたい。
思いながら、アクセルを踏んだ。
思っただけで、車の中で体を揺することは、なかった。