話さない訳 後編「写真」
朝起きると、部屋の掃除をはじめた。
部屋が、 心の状態を表すように、ひどく荒れていたのだ。
妻に呼ばれた。
妻たちの寝室である。
押入れを指差して、こう言った。
「まず、ここにあるものを、あんたの部屋に片付けて
それから、部屋の掃除してよ。ちゃんと順番を考えて」
俺は、その押入れの中身を、見つめていた。
親父やお袋の遺品がほとんどだった。
俺の子供のころの写真や、親父たちのものもあった。
とにかく、押入れの物を俺の部屋へ押し込んだ。
山のようになった段ボール箱や、アルバムなどに囲まれながら、途方にくれる。
アルバムを開いた。
娘と同じくらいの年齢の、俺がいた。
顔も娘に似ている。
何年ぶりに、この写真を観たのだろうか。
お袋が、俺を抱いて笑っている。
今ならわかる。
このとき、お袋はどんな気持ちで俺を抱き、笑っていたのかを。
荷物を押しのけ、辛うじて寝るスペースを作った。
明日、片付けよう。
布団の中で、すぐに寝たようだった。
夢を観た。
親父が俺に会いにくる。
忘れ物か何かを、届けてくれるようだ。
俺の目の前まで来ると、そのまま通り過ぎて行く。
親父を追った。
何故、素通りするのだ。
すぐに追いついた。
死んだ筈だ、そんなことは夢の中では考えもしない。
何か喋ろうとしたら、親父から金色の鍵を渡された。
そこで、目が覚めた。
夢などに、意味などあるのか。
親父たちの写真を観たから、そんな夢をみたのだろう。
足音が近づいてくる。
妻の声が、まどろんでいた俺を覚醒させた。
また今日も、言い訳という名の自己主張はしないだろうと思った。