臨界点 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

臨界点

「部屋に閉じこもっていないで、草取りでもしなよ」


外に出て、鎌を握る。


思い切り、地面に叩き付けた。


刃の部分が、土にめり込んで見えなくなっていた。






俺に自由はない。


就寝前の僅かな時間。


唯一ほっとできる時間だった。


やることといえば、PCに読書。


あまり面白くもないTVを、ぼんやりと観る。


それくらいのものだった。


日中は、妻の意向に100%従う。


こういう人生もあるさ。


下卑た呟き。


自分が嫌になる瞬間でもある。




草刈。


徹底的にやった。


何時間、庭で作業したのだろう。


疲れては休み、また作業する。


それを繰り返した。


すでに日も低くなり始めていた。


妻が時々、カーテンの隙間からこちらを覗いてくる。


食い物の匂いがした。


飯を作っているようだった。




おまえら二人で、勝手に食え。


俺は、お前らと一緒に飯など喰わん。


呟いていた。





それでも腹は減っていた。


結局、俺は妻と顔をつき合わせながら飯を喰っていた。


プライドというものはないのか。


卑しく生きる。


それもいい。


西日の中、俺は草を刈りながら心の中で呟いていた。