夢 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

妻の声で眼が醒めた。


娘を寝かし付けたまま、眠りこんだらしい。



犬の散歩についての、苦言だった。


妻は語気を荒げて、まくし立てる。


朝、散歩に行けずに庭に縛る。そして、糞尿をする。


それが臭い。


何故、散歩をさせられないのか、という話しだった。


糞尿は散歩途中、道端にさせる。


散歩コースが、空き地か田畑なので、


それで済んでしまうのだった。


考えてみれば、身勝手な話しだと思う。


都市部で暮らしていたら、買い物袋をぶら下げ、


糞を拾い上げているはずだ。

 



俺は妻と娘の寝室を出て、ソファーのある部屋へ行った。


一年以上、このソファーが俺のベッドなのだった。


安物の、ソファーと呼べるのか、わからないものに横たわり、


布団を被った。




眼を閉じた。


幹線道路から、トラックの唸りが聞こえてくる。


何も、起こしてまで言うことじゃないよな。


思ったが言葉にはならなかった。

 



夢を観ていた。


尊敬か憧れか。


人生の成功者。


そんな人物に、夢の中で会っていた。


どこまでも紳士的な物腰だ。


名もない俺に対して、嫌な顔一つしないで話しをしてくれている。


こんな人になりたい。


夢の中で思っていた。

 





いつもより早く起きて、犬と散歩をした。


静かな朝だった。


照り付ける朝日に、老犬は眼を細めている。



「昨日は悪かったな」



尻尾を振って答えているのか。


いつもは泣きそうな顔の老犬も、今朝は笑っているように見えた。


こんな俺にも、夢を観る資格はあるはずだ。



どんな夢でも、日々、生きていれば、実現の可能性はゼロではない。



宝くじだって、買わなければ当たらない、よな。



呟いていた。