バイク | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

バイク

妻も娘も熟睡していた。

車の中である。

家に居ても、息苦しいのか、それとも退屈なのか。

休日は決って外出だった。


左側から抜かれた。

左手をちょっと上げ、合図を送ってくる。

いい音をさせているな。

大型のバイクだった。

晴れた暖かい日中。

こんな日はバイクが良い。



3年くらい前まで、バイクに乗っていた。

今は、もう所有していない。


学生時代、貯金を叩いて250ccのバイクを買った。

2気筒のカワサキ。

それでよく峠道を走ったものだ。



夜の峠。

どれだけバンクできるか。

それが全ての様なものだった。

性能では、ほかのバイクにかなわない。

下りのストレート。そして右のヘヤピン。左側は谷である。


全開。


突っ込み過ぎた。

わずかにブレーキが遅れたのである。

道路脇の砂に前輪が乗り、視界が回った。

ヘルメットが路面を擦る嫌な音がする。

怪我はなかった。

縁石に弾き飛ばされ、谷底へ落ちることもなかった。

起き上がり、バイクを確認すると、

リアホイールが見事に曲っていた。パンクである。

自分が無傷だったことを喜ぶより、バイクがボロボロだったことがショックだった。



バイクはいい。



スピードを上げると、小さな悩み事も、

風と共に吹きとばされていくような気がする。




今は車の運転だ。



ただ、移動する為だけに、車を運転している。

バイクいいな。


つぶやいていた。


起こしてしまったのか、すでに起きていたのかわからない。

妻は眠そうな目で、前を見ていた。