月 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

やけに月が大きい。

満月。

夜空を、青白く照らし出している。

遠くの山まで、はっきりと見えた。



「観てみろよ。月だ。わかるか。」



犬に話しかけていた。

ちょっと遅い、犬の散歩。

犬は首を傾げて、不思議そうに俺を見つめてくる。



風呂を洗い、夕食をとった。

娘が、椅子に据付られた小さなテーブルに、派手に食べ物を散らしている。



「今日、帰宅途中に知人と会ったよ。」

「ちょっと話し込んだんだ。」


そんな話を妻にした。

ちゃんと聞いている。

剣呑なものは、なかった。


とつとつとした、妻との会話。


少しずつ。


心の中で、呟いていた。



娘が、童謡か何かを歌っている。

スプーンにごはんを掬い、口へもっていく。

顔をそらした。

「自分でやる。」

娘がそう言った。




穏やかな夜だった。

俺は汚れた食器を洗い終えると、外に出て夜空を見上げた。


満月は、心なしか小さくなって、ずうっと上の方で白く輝いていた。