物差し
娘に言った何気ない冗談。
透かさず、妻に罵られた。
「嘘は教えないでよね」
語気を荒げた言い方だった。
「なんでそんな言い方する訳」
「だってヘンなこと言うからよ。普通の人は言わないから」
物差しが違っている。
俺が考える冗談は、とんでもないナンセンスなものなのか。
そして妻が、なぜ笑っているのかわからない時もある。
俺が言った冗談で、妻がキレたことがあった。
友人や同僚は、その冗談で普通に笑っていた。
どうなってるんだ。
そう思って、狼狽したものだった。
買い物の帰り。
妻がいきなり笑った。
「ああ、可笑しい」
一瞬考えた。
可笑しい理由は、思い当たらない。
強いて言うならば、妻が音を立てて飲み物を飲んだことだった。
「何が可笑しい」
返事は無かった。
そして、確信した。
飲み物を、音を立てて飲んだことが、どうしようもなく可笑しかった、と。
信号で、止まった。
とっておきの冗談。
急に思い出していた。
思わず、口をついて出そうになったが、
俺は必死で、それを飲み込んだ。
気付いたら、口元だけで笑っていた。
妻には見られずにすんだようだった。