限界 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

限界

帰宅した。

妻は、出かけている。

俺は一人、何を待っているのか。




いつものように、言葉の暴力でズタズタにされることか。

それとも、春の訪れか。


春の訪れなんてないよな。氷河期なんだ。


呟いていた。


それでも、暖かい春は、確かにあった。




テレビを、ぼんやり見つめていた。


恋人だった人の記憶を消すと言う、映画のCM。


俺は、楽しかったころの、妻との思い出を、全て消したいと思った。

そうすれば、こんなに苦しまなくてもすむはずだ。

最初から、楽しい思いもせず、つらい思いばかりしていれば、それが普通になる。



心身ともに、疲れてた。


ひどく、年をとったような気分だ。



妻が帰宅した。


目の前にあった、穏やかなときの流れが、一瞬にして凍りついた。


俺の体も、硬直した。


もう気持ちは、萎えていた。