酒 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

やけに寂しい背中だった。

片肘を、ちゃぶ台に着き、腰をくねらせている。

茫洋とした視線で、テレビを観ていた。

先日、俺が買った缶酎ハイを片手に。


なんと声を、かけて良いかわからない。


一緒に飲もう。

そう言いたかった。



俺の分は、さっき飲んでしまっていた。




妻が仕事に出かけている間、子供の世話は、俺の仕事だった。

子供を寝かしつけるころには、疲れて寝てしまうことが多い。


妻が、遅くまで起きていたので、気になって様子を見に来たのである。



「明日早いから、先に寝るよ」

「うん」

心ここにあらず、といった返事だった。



妻と、酒を酌み交わせながら、いろいろと話したい。

酒の力を借りなければ、話せないかもしれない。

なんとなく、思っていた。




テレビでは、IT企業の社長が、記者に追われ不機嫌な表情で、

足早に車の中へ消えていった。



「じゃ、先に寝るからね」

「わかったから」


いつもの調子だった。


昔は、どのようにして、妻と話していたのか。

思い出せなかった。


付き合い始めたころ。

妻は、いつも笑っていた。

今は、娘に対して、その微笑みは向けられる。


いつか。

いつかきっと、笑って話せる。

そう心の中で、願っていた。