化粧 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

化粧

夜中に妻を駅まで迎えに行った。

結婚式の帰りである。

娘はチャイルドシートで不機嫌に泣いていたが、

いつの間にか寝てしまっていた。




同窓会なんか、恥ずかしくていけない。

今の私は、惨め過ぎるから。

そんなことを、言われたことがあった。

友人と比べると、どうしようもない位

さもしい暮らしなのだろう。

俺が、妻を不幸にしたのだろうか。




駅に人影はなく、青白い光がホームを照らし出している。


暖かい、家庭。

築けると思っていた。

ルームミラーに映った、娘の寝顔。

これ以上の幸せは望めないのかもしれない。

妻がいて、娘がいる。

週末には、家族3人で出かけたりもする。

それで十分幸せじゃないか。




妻が、大きな紙袋をぶら下げて、駅から歩いてきた。

小走りに、車に乗り込んでくる。



はっとした。

きちんと、結い上げられた髪。

目元に薄い化粧。

赤い紅。

綺麗だよ。

言葉にはならなかった。

心の中で、呟いただけだ。



ちょっと明るい表情。

いつも、こんな妻を見ていたいと思った。


娘を起こさないように、小声でしゃべっている。

何を話していいのか、つかの間考えていた。



考える時間の分だけ、妻を遠く感じた。