鳴き声
鳥が鳴いていた。
不如帰。
山鳩。
烏。
わかったのはそれくらいのものだった。
雀はどんな鳴き声だったか。
思い出せない。
いつもは、老犬と歩いている散歩道だった。
それは農道で、左側が小さな森で右側には水田が広がっている。
娘の小さな手を引いて、歩いた。
風も無い、晴れた朝。
農道を、覆い隠す様に生い茂る、木々を見上げた。
そこから覗く空は、蒼かった。
娘が用水路へ歩いていく。
「メダカさん、いるかな」
娘と一緒に、赤錆色の水の中を覗き込んだ。
生き物はいなかった。
娘はそれでも、水の中を見つめている。
呆れたのか、石を拾い上げ、水の中へ投げ込んだ。
子供の頃は、メダカなどいくらでも見ることが出来たはずだ。
うんざりするような、田舎に暮らしてるのにな。
そう、呟きたくなった。
不便でもなく、便利でもない。
自然に囲まれている訳でもなかった。
中途半端な、田舎なのである。
不便でも、本当の田舎がいい。
いつも、そう思う。
水田に沿って立ち並ぶ、住宅の前を通り過ぎ、家へ帰る。
屋根に雀が留まっていた。
その鳴き声は、短く途切れて聞こえた。
華やかではないが、耳に心地好いと、思った。