拒絶

挨拶の他に、もう一つ始めたことがある。
帰宅前の電話だ。
「今から帰るから」
「わかったよ」
最初は、これで終わりだった。
二回目の電話。
只今、電話にでることが出来ません。
キーを回し、車を走らせた。
雨で濡れた路面に、桜の花びらが張り付いている。
雨はもう上がっていて、西の空に、雲の裂け目から夕日が覗いていた。
カーステレオのスイッチを入れた。
この先君がどんなに変わっても、いいよ。
また笑って話せるはずだから。
そんな詩が、聞こえてきた。
最初は、その曲のメロディーが心に響いた。
今は、この部分の詩が好きだった。
玄関を開けた。
「ただいま」
やはり、返事はない。
俺は、老犬と散歩に出かけた。
塾通いの小学生が数人、老犬を見てうれしそうに笑っている。
俺は、声をかけていた。
「こんばんは」
子供たちも、声を返してきた。
家に戻ると、寝るまで、会話のたびに罵りられた。
少しずつ、壊れていく。
完全に壊れる前に、この家を飛び出してしまいたいと、思った。
思っただけで、出来るはずもなかった。
何も考えられない。
考えたくもなかった。
「何よそれは」
「本当に呆れたわ」
娘の寝巻きをみて、上下、別々のもを着せてしまったと初めて気付いた。
頭痛が襲ってきた。
酒で、治そう。
そう、思った。