空の色 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

空の色

ハンドルを握る腕が、日差しで少しひりついていた。

 

娘は、これから始まるプールを楽しみにしている。

 

妻は助手席で、この暖かさのせいか、眠り込んでいた。

 

 

晴れた、桜咲く、一日。


 

これだけ晴れているのに、空は灰色だな。



最近、気付いたことだった。


空は決して、蒼くはなかった。



勝手に蒼いと錯覚しているだけなのだ。



都市部へ車を走らせていくと、驚くほどその灰色が濃さを増し、

 

遠くのビルが霞んで見えたりする。

 

 


向かい合う横顔のシルエット。


そんな絵を、心理テストか何かで見たことがあった。


見方を変えれば、ワイングラスに見える。


それと、同じなのかもしれない。


物を見つめているのは、眼ではなく心なのだ。

 

 

空は蒼いという思い込み。

 

 

何の疑いもなく、灰色の空を、

 

晴れた清々しい空だと思ってしまう。

 

 

心の状態で、美しいものも醜く見える。

 

その逆も、また、あるのかもしれない。

 

 

灰色で埋め尽くされた心に、蒼い空は見えるのだろうか。

 

 

 

 

空に向けた視線を、真上の方へ移していった。


すると、徐々に薄い青味を帯びてくるのだった。



本当は蒼いんだ。



破れた所から覗いた、薄青い空が言っていた。


きっと見えるさ。

心の中で、呟いていた。

 

 

 

「信号、青だよ」

妻だった。

 


よく観ると、青色じゃなく、薄緑色だった。