富良野への出張で、一日やりくりして、どうしても行ってみたかった所が夕張。
かつては炭鉱で栄えたものの、観光資源が乏しく財政破綻を起こした街。映画の街として街おこしをしたものの・・・・。
しかしながら昭和の映画ファンには何とも懐かしい空間になっておりました。
今はほとんど淘汰されてしまった、看板職人が描いたフィルム映画黄金時代の宣伝用看板が街のありとあらゆる場所に掲げられております。
CGで作られたポスターが当たり前の時代、ペンキの看板は何かを訴え、ついつい一枚一枚足を止めて見入ってしまう。
ペンキの看板は多分投影式の手書きなので、顔は似てるんだけど似ていない。
特に洋画になると職人さんの腕の差と云うより、映画が好きかそうでないかの差が明らかに表れ、哀しい顔のスティーブマックィーンや、可愛くないヘプバーンも残念ながらおみえになります。
でも看板は総合的にいい味出しています。
おぉ『シェーン』だっ!
この後、アランラッドは弾を腹に受けていながらシェラネバダ山脈に消えて行く・・・・。
こっちには『ブッチ&サンダス』がある!
バートバカラックの『雨にぬれても』が聞こえてくる。
ペンキの看板は映画のシーンやストーリー、当時の自分を思い出させる凄い力がある。
『寅さん』はたくさんあるけど大抵似てない。
多分若い職人さんで思い入れがあまり無いのかもしれない。
などと、ゴーストタウンの様なメインストリートをあっちにふらふらこっちにふらふらと。
こうして看板を一つ一つ観賞するには一人に限る。多分この感性を共有できる他人はそういない。
ゴーストタウンをウロウロしていると、何やら記憶の片隅にある風景が、そうであって欲しいとかすかな期待を抱きつつ、自然と足はそちらの方向へ。
近付くに従い期待は膨らみ、まさかと思いつつ、路地裏的階段をに足を一歩かけると、そこは間違なく山田洋次監督の『幸せの黄色いハンカチ』の風景。しかも高倉建さんの風景でもありました。
全く基礎知識無く訪れているのでこの様な感動は筆舌しがたい。
光枝(倍賞千恵子)とようやく所帯を持つものの、待望の赤ちゃんが流れてしまい、過去を語らなかった光枝に逆ギレをした勇作(高倉建)は、星一徹よろしく、ちゃぶ台をぶち投げると夕張の繁華街へ。
光枝が泣きながら割れた茶碗を片付ける姿が目に焼き付いております。
そしてまさにこの場所、この路地裏の階段に差し掛かかった時、中腹のお店「食事の店小径」を飛び出して来たチンビラ二人とぶつかり、因縁をつけられた勇作は、静かに逆上し一人をぶち飛ばし、
コンクリートブロックの角に後頭部を数回打ち付け網走刑務所のお世話になるのです。
そしてお勤めを終えた建さんが、欽也(武田鉄也)朱美(桃井かおり)とオホーツク海の海岸で出会い、光枝が待つ夕張に帰る旅が始まる『幸福の黄色いハンカチ』の重要な風景なのでした。
しかし撮影現場を物語る看板は表通りから撤去され、人目につかないこの場所に片付けられております。
人々は『お花畑牧場株式会社夕張出張所』には集まるものの夕張の街にはには目もくれない。
忘れ去られた観光地の哀しい現実。
栄枯盛衰あぁ無情…。