GOTHIC-FLOWER
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おはようと言う君の横で私は

どこかを見ている。

誰かと一緒にいる、気もする。


つり革を掴む手は白く、爪だけが妙にキラキラしている。

青と、オレンジのまじったラメ。

指にはいくつかの指輪。時計はしていない。


『うん、わかった!じゃぁ●月●日に銀座のソニービルの前で』

携帯の画面に浮かぶ文字。

今月の土日はそんな約束ばかりで埋まっていく。

今回はお茶をするために銀座を選んだ。お気に入りの紅茶が飲みたいという友人のリクエストに答えて。

ぱりっとした白いテーブルクロスと、銀色の茶器を目の前に

湯気の立つダージリンが飲みたい。それもセカンドフラッシュのマーカレットホープ農園のものを。

そんなことを考えながらふと電車の窓を見る。

外は夕闇で、遠くにオレンジ色の夕日が溶ける。

コワイ時間だ。曖昧な。


恋人にもメールをしておかなくてはいけない。

彼にとって自分が鬱陶しくないように適度に時間を空けて。

もうそろそろそれも何年目になるだろう。

ため息と一緒に、何かが出そうになる。

こんなことばかり考えて、続けるのか。

結婚してくれない、とも思う。でも結婚したくない、とも思う。

結婚する気はある、という彼の言葉だけを頼りに付き合っていると思っていた。

でも。

さびしいと思っていた。傍らに誰もいないことが。誰にも愛されないことが。

愛されると余計さびしくなることも、苦しくなることも、全部知っていたのに。

全部陳腐な台詞だな、と思う。ばかげてる。

ケータイの恋愛小説みたいだ。いや、それならもっとドラマチックか。

ネットに溢れてる一般人の恋愛相談室にありそうな。

『もう何年目にもなる彼と、今後どうしたらよいかわかりません。』

文字にすると、まるで別の人が書いた陳腐な相談みたいになった。

笑えた。


狂えない自分がすごいと思う。


彼と約束していたのは金曜日の夜。

都内のホテルを予約しておいたので仕事終わりに新橋へ向かう。

「久しぶり、だね」

そういいながら疲れたままの彼はそのままベッドへなだれ込み、

朝になっても起きない。

もう慣れたとはいえ、他人の眠りの横でじっとしているとは

なんて苦痛なんだろう。


寝息すらしない、完全な眠りに支配されているその顔を

黙って眺めている。


朝もまだ来ない闇の中、その綺麗な鼻梁をなぞる私の指は、白くて爪は青い。

くすぐったいのか、眉間にしわが寄る。だが眠りは深い。

生きている私の青い爪と、死んだように静かなその鼻梁のコントラスト。

もしここにナイフをかざしても、きっとその鼻梁は死んでいるのだろう。

私を拒むのだろう。


ナイフは鼻梁をなぞって唇を割き、

綺麗な丘のような喉を割く。


白い清潔なホテルのベッドシーツは血に染まる。


綺麗な洋服が好きだ。

「お客様に似合うと思って」

かわいらしい店員が持ってきたワンピースには、

花柄で裾に繊細なレースが重なる。

ベロア生地で深緑のスカート。

銀色のネックレスは、リボン型に王冠のモチーフ。

ストッキングはまとめて色違いを何種類か。

急にほしくなった化粧品は、ボビーブラウンの頬紅。

MACのファンデーション。

アナスイのブーツが安くなってる。ニーハイの、編み上げブーツ。

まだ毛皮の季節じゃない。でも見たくなる毛皮のコレクション。

ウサギも好きだけれど、キツネも好きだ。手触りが少し硬くて、ボリュームがある。


もし喉が裂けるのなら、音がするだろう。

それでも彼は黙っている。

音がするとすればそれは・・・


滲んでいく空気。

かすんでいく裸体。


散り散りになる感情。

まるでどうしようもない。




「・・・、う」

うめくように目をあけた貴方。

貴方、一回私に殺されてるのよ。

教えてあげたい衝動に駆られるけれど、私は笑顔を唇に乗せる。

「おはよう」





***









愛を数える

些細な出来事とか、

ちょっとしたすれ違いが

会えない時間に増幅して

不安と孤独を育ててしまう。


重くなる腕が、

鬱陶しい。


どうせ切ることなんてできないくせに。


良くない感情が

泥のように口から入って

体に溜まって いく。


目に見えて

比べることができたなら


コワイのは貴方が少ないかもしれないから?

それとも。




じんせい

途方もない時間。


心臓が痛くなるほど懐かしい、時間。

戻らない時間。

苦しくて、辛くて、

逃げたくて、逃げられなくて、

泣くわたしを、走り回る私を、


皆 見てくれていたよね。


私はずっと一人じゃなかったなんて、

陳腐な言い回しだけど。


笑ったり、怒ったり、

慰めあったり、一緒に苦しんだり

色んなことでいっぱいいっぱいだった私と

あの頃一緒にいた皆様。


愛してくれてありがとう。


そしてきっと、今の環境も

そうやって懐かしく思い出すときが来るのだろう。

そしてそのときも、

こうしてありがとうっていえたらいい。

今は素直に思えなくても。


人生って、こうゆう繰り返しなのかな。


出会いと別れと別れと出会い。

ありがとうって言えるひとがたくさん言える人生でありますように。






唯一無二

貴方の記憶を引き受けたい。


全部忘れさせてあげられる?

それ以上に苦しませてあげられる?


私はあなたの唯一に、

私はあなたを傷つけられる唯一に、

私はあなたを愛する唯一に、

貴方に愛される唯一になりたい。


それが叶わないなら、

たぶんもうこれ以上の時間はいらない。


磨耗するのは感情で、

疲弊するのは。


全部あげるから、

全部ください。

お祭り騒ぎ

春が来て、

夏が来る。


秋が来て、

冬が。


もうすぐ心が死ぬ時期が来て、

きっと復活する時期が来る。


これはその前の前兆。

お祭り騒ぎ。




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