Closer
本屋やレンタルビデオ店において目当ての品を選んでいる時、誰かが自分の前や後ろを通ることがある。もしくは誰かの目当ての品が私の今立っているそばに並べられていたりして、私の目の前に手を伸ばし、商品をつかむことがある。
よくある話で、そこまではよい。問題はここからだ。なぜか高校~大学くらいの若い男性に多い気がするのだが、この時やたらと近くに寄って来る人がいる。
いや、寄ってくる、とは言っても別に私に用があるはずはない。きっと私のそばに並んだ商品に用があるのだ。それはわかる。わかるのだけれど、わからないのが、
なんで知らん人にそんなに接近するのか
ということである。
恵庭市内レンタルビデオ店でのこと。まただ。手を伸ばし、私が立っている目の前に置かれたCDを手に取った、半分くらい地毛に戻りつつある金髪の彼が、私と肩が触れ合わんばかりの距離でCDをためつすがめつしているのである。
ちょっと。毛穴まで見えますよ。見ないけど。あの、鼻息が聞こえるんですが。聞かない…「しゅこー、ぴー」…聞こえるわ。やっぱり。
確かに通路は狭い。後ろを通ったりすれ違ったりするには体の向きを変え、「おっととごめんよ」と爪先立って通らねばならない。しかしだ。通路は細長く続いている訳で、通路沿いにちょっと避ければ、立つ場所には十分な余裕がある。
一体どういうことなのか。何も人でごったがえしている訳でなし、たとえ私のそばに置いてある品だとしても、ひとたび手に取ったなら後は離れておけばよいではないか。それがかわいい女の子ならまだよいものを、そのような挙動に出るのは彼もそうだがいつも男なのだ。
何だ。避けろってことか。私が邪魔だと。アナタ様にビビって道を開けろと。どけやこのチビと。んだとコノ野郎。手前ぇドコ(の学校)だコラぁ?
学生時代ヤワかった奴ほど元不良のふりをする、という好例を自ら示している場合ではない。近い男の話だった。そこで思うのだ。
これはもしや、距離感の問題なのだろうか。彼は、その距離をことさらに「近い」とは感じていないのではないか。
私も誰かの横で映画やらCDやらを物色している時に何メートル何センチ以内だと近過ぎる、とか思って歩いてはいない。ただ何となく、寄り過ぎないように距離を保っているだけだ。つまり彼はその設定距離が短いだけなのではないだろうか。
ならば私の為すべきは私の設定距離を確保する場所まで避けることであろう。私が意地を張っても彼との距離は縮まらない、いや、この場合距離は広げたいのだった。私が離れる分には彼にも文句はあるまい。離れましょ消えまっしょうれしいっしょこれでやっと自由になれる。
という訳で大黒摩季をうろ覚えに鼻ずさみつつ手短にCDを選びその場を離れ、レジに並ぶ私。店は混んでいる訳でもないのに、私の前の客がひとりレイトショーでも開こうかという量のDVDを受け付けに出しているため、これは少々待たされそうだ。
そして2、3分経過。ずるべたん、ずるべたん、という足音が聞こえ、その直後、受付待ちの私の背中に何かが触れた。それから耳元でしゅこー、しゅー、という鼻息。
奴だ。しかも今度はその距離何とゼロメートル。むしろちょっとマイナス。くっついてるよ兄さん。長ーい髪の毛が私のつむじに触れてるよスカジャン大将。鼻息耳に当たってるよプリン金髪。
何なのだお前は。私に惚れているのか。抱かれたいのか。それともやっぱり「どけやコラ」の人なのか。邪険にすべきか、ビビッて列を譲るべきか、逃げるべきか、わからない。人の心がわからない。そのことが今だけはこんなに恨めしいなんて。
背中とつむじと耳がむずがゆい。店員はまだ前の客のDVDを探している。頼む、早くして。
助けてくれ。
お前が俺にカミを近づける(※)。
※気まぐれながら、せっかくの記事タイトルなので歌詞から引用。Nine Inch Nails 'closer'より。全然引用になってないけど。