Rusty Nail | ガットハロのブログ’混石’

Rusty Nail

ギターは不完全な楽器である。鍵盤楽器管楽器のように完成された演奏方法や調律方法がない。しかし不完全であるが故の魅力ある響きが得られ、不完全であるが故奏法、調弦などにおいて開拓の余地や喜びがある。

 以上はどこかのギターマニア、西川某から聞いた話(しかもうろおぼえ)だが、楽器製作に関わる人間ならまだしもたかだか消費者、厚かましく言っても演奏者である私にはどうでもよい理屈である。音によって人の心に訴えかけるという無茶な理想が音楽という芸術または芸能の存在意義だと思われるが、その方法と言えば太古の昔から何の進歩もないのだから。


 数ある感覚器官のうち聴覚のみにしか訴えかけることができず、いかなる道具を使うにせよ、演奏以外に伝達手段がない。おまけにその伝達手段すら演奏者個人の裁量に支配される。今さら楽器の完成度などという要素ひとつが完全だろうと不完全だろうと大した問題ではないということだ。


 そう、問題はそんなところにはない。世界の正義は科学である。人は空を飛び、宇宙へも飛び、ニッカボッカは鳶、進歩はなお留まるところを知らない現代科学。時の絶対権力たる寿命にも逆らい高齢化を迎える現代科学社会。元気な爺さん趣味はランニング。私よか健康だ。内容がえらいこと取りとめなくなっているが現代科学は偉大だよ、という話だ。そうなんだよ確か。だのにこれはどうしたことか。


なにをサビとるのかお前は。


 弦である。ギターの弦はどうしてこう易々と錆びるのか。張り替えたその日に1時間ほど触り、次の日から2、3日雨が降り続いた今日。巻弦の太い方はよしとして、プレーン弦の1~3弦。なんか黒ずんできているのである。たかだか3日で。生ものですからお早めに、って感じか。それともギタリストとか自称すんなら毎日弾かないと腕も錆びちゃうよお、とかいうまわりくどいイヤミか。


 何だ、エリクサーを使えと言うのか。ああ知ってるとも。確かに奴は優秀だ。「他に比べて」錆び「にくい」弦だ。ヒットポイントを全快させるだけのことはある。だがしかし。ダマスカス。あなたはそれで十分か。隣のヤツより俺の方がマシかな、でオッケーか。最高の笑顔ではいチーズできるのか。なんたる凡俗。なんたる堕落。とっても普通。そんな心でオリジナリティだのロックは魂だのとほざくのか。アーニーさんやらダダリオさんから「はいよっ」と投げられた餌を何の疑問もなくパクっとしちゃうのにレベルミュージックとか言っちゃうのか。


 そこで私は考えた。全ての弦を巻弦になっている6~4弦用のものにしてしまえばよいのではないか。これでも最終的な解決策ではないものの、平均寿命を倍くらいに引き伸ばせるはずである。たしか各弦の太さはチューニングを維持するために計算された太さになっているはずだが、なあに、そんなのどうにかなるさ。気合と根性で。あと愛とか。


 さあ、ここに7弦ギター用のセットがある。まずは普段6弦(太さ0.46)を張る場所に7弦(太さ0.52)を、次に5弦の場所に6弦をと順に張って、2弦と1弦の場所には、さあ何を張ろうかな、ふふふ。


 結果はどうか。5弦のところに6弦(太さ0.46)を巻いた時点で私はあきらめた。がっちがちに固く巻いてもチューニングが4音下より上がらないのだ。ついでによく見ると3~1弦におけるナット(弦受け)部分がどう見ても巻弦が通る太さではない。さすがにこんなお遊びのために取り返しのつかないギター改造劇的ビフォーアフターなどやりたくないので、どうやらここで手詰まりだ。4弦を6本張ればテンションはさておきチューニングはなんとかなるのでは、という案も浮かんだが、すでに7弦セットをオシャカにした今の私にはまるっきり魅力的でない。


 傷心の私はしかしあきらめない。まだ終わりではない。弦が一本も残っていない私のギターに、まだサビた場所がある。よく見るがいい。ピックアップやピックガードその他を止めているネジだ。この前時代野郎め。ギターの心臓部を守る身でありながらそのうらぶれた錆び具合はなにごとか。我が7弦セットと人件費の恨み、一身に受けるがいい。1、2、えーと、18本ある。訂正。十八身に受けるがいい。


 とまあ、もうどうでも良くなり始めた私はついでに分解掃除でも、という気分でギターのネジを片っ端から外した。替えのネジなど当然、ない。


ごとん。


 ピックガードが外れた音だ。さて、ギターを開けてみましょうか。恥ずかしいとこまでぜえんぶ見てあげるよお、げへへ。


かたん、びょん、ぷち。


 え。何だ今の音は。ふいに首筋のあたりがピリっとし、このまま知らん顔をしてネジを締め直してしまいたい衝動に駆られた。なぜかしら。


 もちろんそんな訳にはいかない。他人の物ならいざ知らず、これは私のギターだ。いや違った、誰のものであれ原因を不明にしてはおけまい。さあ勇気を振り絞ってそのドアを開けよう。もう何が起こったかなんてわかりきってはいるけども。どの程度イヤな事になっているのか、それは私の手に負えるイヤさなのか。


 で、私はハンダごてとハンダを買いに行くのでこの辺で。ああ、いや大したことじゃないです。ちょっとピックアップというギターの心臓部が断線、つまりプッツンして音が出なくなった程度のことです。考えなしに全部ネジを外しちゃったんだからしょうがないですよね、ははは。ま、しかしですよ、気にしないでほしいんですね。大丈夫です。ええ、本当に。え、サビがなんですって。ギターなんて音が鳴る以上にイイコトないでしょうがっ。きいっ。