月湖がまた新しい物語を書き始めた。

それは、突然のこと。


その日、彼女は寝付けず寝たり起き上がったりをベッドの上で延々と同居人のクマと繰り返していた。

それはちょっとした鬱と言ってもいいのかも知れない。一種の感情の濁流に彼女は呑まれていた。

時刻は午前二時。

そして突然彼女はベッドから起き上がると、ワードソフトを起動させて言葉を綴っていく。

明日は一限からある。

けれど彼女にサボるという概念は基本的に無い。

月湖は、身体が弱い。

徹夜しただけで、次の日心臓や体中が痛む

それでも、彼女は止まらない。


物語の始まり、冒頭の一文が書かれた。

世界の、始まり。


僕は、この瞬間を見るのが大好きだ。



以下、その数日間のサイトのメモ似て、月湖の言葉。



『脆弱な身体など知るものか、この魂の嵐こそがすべてだ』

明日一限からあるっていうのに、分かってるのに。嗚呼この湧き上がる物語を止められない。
熱もあって、弱ってる。弱ってるけど、この言葉を紡がなかったら私のなかの魂に傷がつく。

これ以上起きてたら身体に障る。今日は心臓も痛む。けれど、
もっと大切なものが傷つくくらいなら。
大切なものの為なら身体など削れても構いはしない。

短くても良い、短くても良いから、
どうか私を生かしてください。

私が生を感じられる仕事を。
私の生を感じられる仕事を。



私の物語を。



 

2010/05/21 (Fri) 2:12




『此処は、寂しい。寂しい場所だ。寂しい場所で、見渡す限りなにもない荒野で立ち竦む。指を、伸ばす。嗚呼、その先は何処。』


風が吹く。

すべて亡んで仕舞えという滅びの風。

生々しい傷跡と、静かな涙の匂いの風。


同じ色をしてるのに、まったく正反対の匂い。

死と、生の匂いの風。



この物語をどちらに運ぶ。



2010/05/21 (Fri) 20:53



『消えてなくなるまで』

もっと、強く。息が出来ないほど。
濁流のなかで、喪失を味わうように。


そう、これが物語。
エンターティメントを剥ぎ落した。
剥き出しの物語。

野獣のように、茨のように、嵐のように。



2010/05/21 (Fri) 21:40





書いてる彼女は、楽しいと言いながらも辛そうだ。
けれど、彼女はやめようとしない。
何故なら、彼女は『生きたい』のだ。

彼女が創造者なら、僕は観察者だ。
僕はただ、彼女の生を見つめ続ける。
観察者のまなこが曇らぬ限り。