その後、俺たちは警察に見つからないように遠く遠く、誰も来ないようなのどかな町に引っ越した。
ヨンジェは大学を中退し、俺について来てくれた
「大丈夫です、僕たち2人なら何だってできますよ」
そう言って。最初は罪悪感すらあったものの、今ではヨンジェもここの生活に慣れて幸せに暮らせているからその罪悪感もどんどん薄れていった。
この町は、とにかくみんなが温かい。小さな花屋、小さなお店、小さな雑貨屋。どれも小ぢんまりとしているが、生活に困ることは無い。人々も温厚で優しいのだ
今までは人と関わる事すら拒否していた俺も、その周りの人の温かさとヨンジェのおかげもあってか、少しずつ人と関わることが好きになっていった
ある日、ヨンジェは俺が座っているソファーの前に立ち、求人の広告を見せてきた
「ヒョン! 僕、働きたいです!ほら、あのお花屋さん!綺麗でしょう?」
と、花屋でバイトがしたいと言いだした。広告を必死で指さしながらその事を熱弁してくる。そして「どうですか?」とでも聞きたげにキラキラとした目で俺を見つめ続けるのだ
「別に働かなくてもよくない?」
俺は読んでいた雑誌から目を離さないまま言った。そんな可愛い顔、他の奴に見せたくねーし
「楽ばかりするのはダメですよ!それだったらヒョンは家にいて家事でもしててください」
ヨンジェの頭の近くに、怒りのマークが見える。それぐらい、分かりやすい。でもそんなトコも、俺にとっては可愛いく見えるんだ。
末期だな、俺
「お前のそんな可愛い顔、他の誰かに見せたくねーし」
言った後、急にヨンジェが喋らなくなったから、チラッとヨンジェを見上げると顔を真っ赤にしたまま硬直していた
「なーに、照れてんの?」
俺は雑誌を自分の隣に置き、硬直しているヨンジェの背後に回った。そして、ゆっくりとヨンジェの腰に手を回し耳元で囁く
「顔真っ赤だけど。そんなに嬉しかった?」
「べ、別にそんなことないです!」
言葉は強気だけど、顔が真っ赤だからバレバレだ。可愛い奴め
「まぁ、バイトしたいならしていいんじゃない?俺にそれを止める権利もないし」
抱きしめていた腕を解いて、ヨンジェの顔を覗き込む。するとパッと目を輝かせ
「ほんとですか!? やったー!僕、一回でいいからお花屋さんで働いてみたかったんです!」
と俺の周りでぴょんぴょんと飛び跳ねだす。子どもかよ、と言っても そんなのは聞こえないようで、未だにニコニコしている
「じゃあ、早速応募してきますね!」
「おー。気をつけてな」
笑顔で手を振るヨンジェに、俺も笑顔で手を振り返した。花屋で働くヨンジェ……か。想像しただけで頬が緩む。いつか働いている所を見てやろう。また一つ楽しみが増えた、なんて思っていたけど
後々、後悔することにまだ俺は気づかない
俺はこの時、そこに行かせなければ良かったのだろうか。それを止めていたら……今みたいには、なっていなかったのだろうか?