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「じゃあ、僕は醤油で」
「では、僕も同じのを」
べムべムに連れられてきたラーメン屋。べムべムによると、ここが噂じゃ一番おいしいラーメン屋らしい。行ったことはありませんけどー、なんて笑顔で言っていた。やっぱり、どこか掴めないな。
事件についての対応は新入りとは思えないほど迅速で、失敗もほとんどしない。自分で言うのもなんだが、僕とべムべムがタッグを組めば最強だと言われているぐらいだ。でもこういう時はなんだかほわほわしていて、全く掴めないのだ。
僕たちはラーメンが出来上がるまで一言も会話を交わさなかった。ラーメンが運ばれてきた瞬間にべムべムは目を輝かせた。
「いただきます」
と、麺をすすりだす。
僕もそろそろいただこうかな。
「いただきます」
スープを一口飲んでみると、確かに今まで食べたラーメンの中では美味しい方なのかもしれないと思った。
しかしただラーメンを食べるだけで、べムべムは話を切り出そうとしない。……一体何が目的なのだろうか。あぁ、いけない。職業病が出てしまった。どうしても刑事という職業をしていたら何事も疑い深くなってしまう
「ジニョン先輩。」
食べ終わった後にべムべムは口を拭きながら僕に呼びかけた
「何?大事な話って。」
自分から言い出さないと始まらない気がした。氷が入り過ぎたコップの表面から、水が滴り落ちる
「……実は僕、先輩が調べている事、調べてみたんです。」
べムべムは僕から目を逸らさずにはっきりと言った。調べた?僕が調べていることを?
「あの日、僕が手伝いましょうか?って聞いた日から何日か経った日。閲覧室にいた時です。」
あの日?
「すみません、本当は声をかけるか、すぐに立ち去るべきだったのですが……ある記事をジーっと見られていたので気になって。それでその記事を見てしまったんです。」
全て、彼には僕の調べていることがバレた……という事か。
「べムべム、もう知ってしまったなら仕方ないけどこれ以上、僕の捜査に首を突っ込むのは止めた方がいい。」
喉が、乾いてくる。勢いよく僕は水を喉に流し込む。厄介なことになった。
「待ってください。話を聞いてください。僕、これまでの事件の調査内容が入ったUSBも借りました。」
……なんでそこまでするんだ。USBは、流石にどこに保管されているのかが分からなくて探るにも探れなかったのだ。べムべムは上司にもかなり気に入られている。僕以上に。だからそれで借りることができたのかもしれない。
「そしたら、出てきたんです。先輩が探しているのは……イム・ジェボム、ですよね?」
ドキっと心臓が反応する。興奮状態に陥る。
何でその名前を
「なんでその名前が分かった?なんで俺が探しているのがジェボムだとわかった?」
つい質問攻めしてしまう
「簡単に出て来ましたよ。彼の名前。その事件リストの中に詳細が書いてあって。それがその容疑者の息子の名前でした。」
つまりあの新聞記事の容疑者は、本当にジェボムの父親だったのか……淡々と話し続けるべムべム。やはり真剣な話をしているときといつもとでは全く顔つきからして違う。
「新聞記事の中には書いてなくて、USBの中には入っている情報。それが先輩が調べたい情報なんじゃないかと思って。」
図星だ。
「当たりだよ。でも一つ質問させて欲しい。ジェボムは警察に保護されたっていう情報はあった?」
「いえ、確かなかったと思います。」
やっぱりそうか。なぜ保護されていないのだろう。両親がいない中で彼はどうやって過ごしてきたんだ?
……それにしても、べムべムはなんでここまで?
「べムべム、ありがとう。でもこれはかなり、リスキーな捜査なんだ。だからもうここまでで……」
「先輩。もう僕はどうなってもいいんです。」
話を遮り、何を言い出すかと思えばそんな事。まだ若い新米刑事が、何て事を。
「べムべム……」
「もう同じ毎日の繰り返しは嫌なんです。別に目的があって刑事になったわけでもない。それだったら目的があって刑事になった先輩の補佐をするほうがよっぽど良いんじゃないかって。どれだけリスクが高くてもいい。協力させてください。お願いします。」
あまりにも真剣で。あまりにも鋭い視線で。今までのべムべムからは想像できないような表情。でも、これは僕一人でやらないといけないんだ。巻き込むわけにはいかない
「下手したら死ぬかもしれない」
そう。手段は択ばないから
「……僕の心はもうとっくに死んでます」
自嘲気味に笑って悲しげな表情を浮かべるべムべム。心は死んでる、か。きっとこのベムベムの決断が揺らぐことは無いのだろう。
「べムべムがそうしたいなら……好きにしていいよ。」
そう言うや否や、パッと明るくなる表情。
「ありがとうございます」
「ううん、僕の方こそありがとう。わざわざ協力してくれて。でも、くれぐれも無理しないで。それとあまり派手な行動には出たらいけないよ。」
まだ、ベムベムの本心はわからない。でもこの表情からして、彼が何か嘘をついているようには思えないのだ。
「はい。」
いつもの捜査でも、べムべムとタッグ。
このジェボムの調査でもべムべムとタッグ。
もしかしたら僕たちは本当の仲間になっていくのかもしれない。そう思った。
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