「はぁ……」
大きくため息をついたこの少年は、キム・ユギョム。学校1の大金持ちである。
「ユギョム君よ!」
門をくぐると同時にあたりからは黄色い声が聞こえる。ユギョムは特にその声に応えることなく、スタスタとただ教室に向かって足を進めた。どうせ金目当てだろ、と冷ややかな目線を送る、が、逆効果。クールでかっこいい、なんて言ってくるのだ。僕はこんなの望んでなかった。
ごきげんよう、そんな言葉を使うのすら馬鹿らしい。普通におはようでいいじゃないか。と、軽く悪態をついた。
全国でもトップレベルの私立進学校に入ってしまったユギョムは、一見恵まれていてなに不自由ない生活を送ってきたように見えるが、それは半分合っていて、半分は間違いである。
親の期待に添うため中高一貫校に入り、エスカレーターでここまで来たが、本人はそれを望んでいなかった。しかし、親の言う事は絶対で逆らう事はできなかった。つまり彼は今まで親に敷かれたレールに沿って生きてきた、という事になる。
席に着くと真っ先に話しかけてくるのは、中学からの親友ベムベムだ。
「ユギョムおはよー」
「おはよう、ベムベム」
ベムベムも全国でも有数の大企業の息子であるが、ユギョムほどではない。少々ユギョムと似ているところがあるのか、彼も「ごきげんよう」なんて言葉は使わない。いたって普通である。
「今日もユギョムは人気だねー」
「ベムベムの方が人気だよ」
ベムベムは優しいため、何かあればすぐにいわゆる「ファンサービス」をする。彼の凄いところは、いつどんな時でも笑顔を絶やさないところだろう。
「そうかなー?」
えへへー、と頭をかきながら少し嬉しそうな様子のベムベム。それを見て、ユギョムは少し微笑んだ。
「ユギョム、べムべムおはよう!」
「あ、おはようヨンジェ。」
いつも授業ホームルームギリギリに登校してくるこの少年はヨンジェ。走って学校に来ているのか、いつも息切れしている。彼は朝起きるのが苦手らしい。
「今日の1時間目って何だっけ?」
ふにゃあっとした笑顔でユギョムに問う。
「確か現代文じゃない?」
「あー!そっか!ありがとう!」
そう言うとまた走って自分の席に着くと同時に先生がクラスに入ってきた。
……また、憂鬱な高校生活が始まる。
ユギョムは親に敷かれたレールの通りに生きている自分を嫌っていたが、それをどうにもできずにいたのだ。