「じゃあ、なんで今さっき家を出ようと……」
涙をこぼさないように、唇をかみしめてヨンジェは言った
「好きだからだよ。好きだからこそ離れなきゃいけないんだよ。お前と俺が一緒に居たら、お前まで犯罪者になる。お前の全てが、俺のせいで汚されるんだよ、傷つくんだよ」
分かってくれ
「違う、そんなの違います」
「違わねぇから言ってんだよ!!」
俺は思わずテーブルを拳で叩き、それと同時に席を立った。俯いているせいか、ヨンジェの顔は自分の前髪が邪魔して全く見えない。
「俺といたら、お前はダメになる。もう何もかも嫌なんだよ。好きで好きでたまらないお前を傷つけることが。痛い思いをさせるのが、怖がらせることが!」
こんな弱い自分、ほんとはお前に見せたくなかった。でも、全部溢れてくるんだ。
自分の感情をここまで人に言ったのは、生まれて初めてなのかもしれない。
「何度も自分の犯した罪は何なのか、考えたよ。でも分かんねぇんだよ それが怖いんだよ。自分が、怖いんだ。また1人、傷つけるのかもしれないって思うと……」
「ヒョン、ジェボムヒョン」
ヨンジェは静かに席を立ち、こっちへ向かってくる。そして背中には暖かな温もりが宿った。
「ありがとうございます、全部話してくれて」
本当はこんな事してられないのに、本当は離れなきゃいけないのに。心情と行動が伴っていない。その温もりに、ただ今は包まれていたい
「僕は、ヒョンが今までどんな人だったかなんて、関係ないんです。ヒョンが今までどんなことをしてたとしても、僕と一緒に居た時のヒョンの姿は偽りなんかじゃないって分かるから」
規則正しいヨンジェの呼吸が背中を通して伝わってくる。こんなにも、人を愛しいと思ったことは初めてだ。でもダメなんだよ……
「ヒョン、もう一回言いますね 僕もヒョンが大好きです」
ごめんなヨンジェ、本当はすごく嬉しいよ。
でもそんな事 言わないでくれ
「ダメだ、俺なんか好きになるな」
行かなきゃ、いけないんだから。俺は腰に巻かれていたヨンジェの手をゆっくりと下ろさせ、玄関へ一歩踏み出した
「待ってよジェボムヒョン」
俺の服の裾を掴み、ヨンジェは言った
「言ったじゃないですか、僕を1人にしないでって。ジェボムヒョンはまた僕を1人にしようとするんですか?」
振り払え、振り払うんだ
「嫌です、そんなの……」
また、ヨンジェは綺麗な瞳から綺麗な涙を流す
「でも俺は、お前をまた傷つけ……」
「ヒョンにだったら何されてもいいです。ヒョンにだったら、傷つけられても、痛くさせられてもいい」
ヨンジェはその涙を拭わないまま俺を見上げた
「やめろ、そんな事 軽々しく言うな」
「軽々しくなんて言ってません!本気で言ってます」
そしてヨンジェはスゥっと息を吸い込み言った
「本気なんです」
「俺は犯罪を犯してる、稼ぎもないし記憶障害がある。それに警察に追われてる」
一つ一つ指を折りながら、突き放すように俺はヨンジェに言い放つ
「そんな情けない俺を、お前は好きって言えるか?」
気づけば一粒の涙が、頬を伝っていた
「言えます」
溢れる涙は止まることを知らないようだ。
カッコ悪いな、俺
「情けなくたっていい、稼ぎが無くたっていい、記憶障害があってもいい、例えヒョンが犯罪者でも僕には関係ありません。だって僕は、もう戻れないところまでヒョンを好きになっちゃったから」
ここまで人を愛したのは初めてだし
ここまで人に愛されることも初めてだ
「ヨンジェ、本当にいいのか?」
「はい、後悔はしません 僕は……ずっとヒョンについて行きます」