「ジニョン」
名前を呼ばれるだけで、高鳴る胸の音。
少し赤らむ頬。細くなる目。
「はい」
嬉しくて少し勢いづいて、少し期待して。でもそれを悟られないように平常心を保って。
「ここのパート、もうちょっと高めがいいと思う?」
何かと思えば歌の話。ジェボムは楽譜を鉛筆で追いながら問いかける。いつもそうだ。僕たちは仕事の話か音楽の話しかしていない。
落胆するジニョン。
「ヒョンは高音が綺麗だから高めがいいと思います。」
答えたジニョンに、ありがと、とそっけなくお礼を言うジェボム。
僕の目は、見てくれない。
そうして、毎日過ごす。宿舎も2人、ドラマも2人、音楽活動も2人。片時も離れることはない。だからこそだろう、あまりジェボムがジニョンに話しかけないのは。
いつも話しかけるのはジニョンからだ。
「ヒョン、喉乾きません?」
「ヒョン、喉の調子は大丈夫ですか?」
「ヒョン、今日は何が食べたいですか?」
どれだけジニョンがジェボムに尽くそうが、ジェボムは常に素っ気なかった。
「あんまり」
「大丈夫」
「特に何も」
その度棘が刺さったかのようにチクリ、痛む胸。しかし、この痛みにも慣れてしまった。
そんなに素っ気ないジェボムに、ジニョンが惹かれてしまったのには理由があった。
練習生時代、ジニョンは誰とでも仲良くできる人であった。しかし練習生の友達がたくさんいる中で、1人、まだ話したことのない人がいた。それがジェボムだった。
元々実力があり、一目置かれていたジェボム。彼は他の練習生とは違い、群れるのを嫌った。1人で黙々と練習をこなす姿をジニョンはずっと見ていた。納得いかなければ何回でもやり直した。そんなストイックな姿に、心を打たれたのだ。
ある日、ジニョンは高鳴る鼓動を抑えながら、夜遅くまで練習しているジェボムの元にスポーツドリンクを持って行った。
話したことがないのにそこまで行動できる勇気を起こさせたのは何だったのだろうか。
練習室にはジェボム1人。ドアを開けるとすぐさまこちらを見るジェボム。
「なんですか?」
警戒するような目でジニョンを睨むジェボム。一瞬ひるむジニョン。勢いづいてしまって、そんなつもりはなかったのに大声を張り上げてしまう。
「あの、ジェボム先輩、練習お疲れ様です!これ、差し入れです!」
スポーツドリンクをジェボムの目の前まで持ってくると静かにそれを受け取るジェボム。
恥ずかしくなったのか、ジニョンは顔を真っ赤にして俯き、
「あ、あの、あ、応援してます!!」
と言うとそそくさと練習室を出てしまった。
「…ありが、と?」
ジェボムの返事も聞かずに。
一瞬の出来事に疑問が絶えないジェボムであったが、ふっと少し微笑み、スポーツドリンクを開けてゴクゴクと喉に流し込んだ。
それから少しずつ話すようになった2人。
最初はジニョンからしか話しかけなかったものの、慣れてきたのかジェボムからも話しかけてくれるようになった。
それだけでもジニョンはとても嬉しかった。
最初は笑ってくれなかったのに、だんだん笑顔も見せてくれるようになって。
ジェボムが色々な表情を見せてくれるのが、嬉しかった。
そんな中で、「JJ」としてデビューすることが決まった2人。嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
しかしいつからだろう。ジェボムはジニョンにそっけなくなったのだ。インタビューでは毎回のように
「ジニョンは手のかからない子です。面倒を見なくてもちゃんとしてくれる。」
そう答える。
確かにジェボムヒョンに迷惑をかけたくないから、仕事に関しては抜け目のないように気をつけている。が、少しは僕のことも気にかけて欲しい。
それがジニョンの本音であった。
自由奔放なジェボムを支えていたのは紛れもなくジニョンであった。
その後当初の予定通り、新たに5人のメンバーを迎え、再び「GOT7」としてデビューすることになった2人。
関係性は変わらないと思っていたが、それはただの思い込みであった。ジェボムは昔見せてくれていた笑顔を、簡単に他のメンバーに見せるようになったのだ。
ジニョンが時間をかけてつくり上げた関係性を、いとも簡単に短い期間でつくりあげていた。
それが、とてつもなく切なくて悲しかった。
いつからか、2人は一緒にいる時間が減った。それは明らかにジニョンがジェボムに話しかけなくなったからだった。
ジニョンは、ジェボムへの気持ちを自ら絶った。ただのメンバーとして、リーダーとして
ジェボムの事を見るようになった。
「ジェボムヒョン?」
久しぶりに、名前を呼ばれた気がした。
「何?」
本当は嬉しくて嬉しくてたまらないのに、素っ気なくしてしまう自分が憎い。
「ここの振り付けの部分、もう少し大きい方が良くないですか?」
鏡の前でもう一度その振り付けの部分を踊ってみせるジニョン。
仕事の話か。まぁ無理もない。俺も昔はジニョンに仕事の話しかしていなかったから。
「多分それで良いと思う」
珍しく俺はジニョンの目を見たがその目が合うことは、ない。
JJとしてデビューして間もない頃、俺はジニョンに素っ気なかった。それは自分でもわかっていたがそれをどう変えることもできなかったのだ。
正直、ジニョンは何でも完璧にこなしたし、俺から教えられることはほとんどなかった。
それなのにジニョンは俺をしたって、ヒョンヒョン、と話しかけてくれた。
そんな完璧なジニョンだったから、俺は何も世話してやらなくても大丈夫だと思い込んで、何もしてやらなかった。むしろ、ジニョンに甘えていたのかもしれない。
今思えば、少し寂しがっていたようにも思えてくる。俺はなぜ気づかなかったのだろう。
ジニョンは音楽を止めると、端っこに置いてあった自分のリュックから水を取り出し、勢いよく喉に流し込んだ。
飲み込むたびに上下に動く喉仏。それとともに滴る汗が綺麗で何とも言えなくなる。
「ん、はっ」
飲み込んだ後の息遣いさえも美しい。見とれてしまっている自分に悪態をついた。
GOT7としてデビューしてからすぐ、ジニョンとの関わりは薄れていった。それはジニョンが俺に話しかけなくなったからだった。
俺がジニョンに自分から話しかけることもほとんどなかった。他のメンバーも入ったのもあってか、他のメンバーとばかり話して。お互いの間にいつしか見えない壁が出来ていた。
あの時、俺がちゃんとお前と接してたら。俺が素直になってたら。今の関係は違ったのだろうか。
「ジニョア~!!」
ドアを開ける音と同時にハイテンションでジニョンの方へと走るマクヒョン。
「どうしたんですか」
少し迷惑そうな表情の中に、喜びが混じっている。
「この前ジニョンが欲しがってたこれ買ってきたよ」
聞いたこともない話。そんなこと言ってたっけ?
「うわぁ!マクヒョン!ありがとうございます~」
あの笑顔。俺以外にも見せるようになったんだ。
「良かったージニョンが喜んでくれて。」
「ほんっとに嬉しいです!」
ふーん。
2人だけの世界、か。
「何何~??えーー!!マクヒョン僕にもこれくださいよ~!」
ユギョムはマクヒョンの肩をポカポカと叩いた。
「ダメ~」
ははは、と、マクヒョン特有のテンションが高い時にあげる笑い声が聞こえる。
「ジェボムヒョン。」
「ジェボムヒョン。」
「ん、あ、なに?」
ジャクソンに2度呼びかけられて我に返る。
「ヒョン、最近すごく元気なさそうですよ。俺が笑顔にしてあげましょうか?!」
ジャクソンはとても気遣いのできる子だ。いつもみんなの事をよく見ていて、空気が悪ければ盛り上げてくれる。
俺と歳は2ヶ月しか変わらないのにヒョン!ヒョン!と呼び、慕ってくれるのが少しおかしくもある。
「ありがとジャクソン」
軽く頭を撫でてやると
「ヒョン?!また子供扱いですか!!俺もう良い歳した大人ですよ!あー、本当に!」
少し笑うと、ホッとしたようにジャクソンも笑った。メンバーに恵まれているなぁと常々思う。
いつになったら、俺はジニョンを目で追うことを止めることができるのだろうか。
いつになったら、この後悔を消せるだろうか
答えなんで出るわけもなく、また1日が過ぎる
気持ちを絶ったつもりでも。「つもり」というだけで、全然意味がないんだ。
愛していると言いたい。
けど、言えるはずなんてなくて。
たった一言。
簡単に伝えることができたら
どれだけ気が楽になるのだろうか。
毎日2人は互いのことを考える。言い出せればいいものの、互いに言えなくて。しかしどちらかが口に出さなければ始まらなくて。
「愛してる」
2人は今日も心の中でそっと言うのだ。
end
(画像お借りしました)


