「…いいよ」👩🦰
周りのみんなに聞こえないように注意しながら、由起ちゃんは言った。
「‼️」😳
「でも、いろいろと、あれだから…
尚ちゃんたちには内緒にしておいてね」🙏
全くの予想外の返答に、ドキっとした。
「おう、そうやな…」
尚ちゃんたち以外の同級生に知れてもめんどうだし、由起ちゃんがそう言うならなぁ、まぁ…みたいな、精一杯の、余裕しゃくしゃくの雰囲気を出して、表情も変えずに答えた、つもりだ。
でも本当は、胸はドキドキ、膝はガクガクしていた。
「椅子🪑に座っていて助かったなぁ😰」と思ったことを覚えている。
「じゃあ…どっちから書き始める❓」
「由起ちゃんから…でいいじゃん…」
「んじゃ、この塾の日に交換、でいいよね❓ってことは…次金曜日、書いて持ってくるね。けどみんなに見つからないように気をつけようね」
「そんなの、わかってるって…」
このハッピーな出来事が現実かどうか判断出来ずに夢見心地な私をよそに、彼女は私から日記📔を受け取り、カバンに入れ、テキパキと帰り支度をしだした。
ふと大切なことに気がついた🌟
「 由起ちゃん、これ🔑」
リングから1本、鍵を抜き、周りに注意しながら、渡した。
「あ、そうだよね」
手が🖐️触れた。
心臓🫀が飛び出るか、というくらい、ドキドキした。
中学2年生の秋🍂
確か最上級生が部活を引退した頃だったと記憶している。
ティーンネイジャーなんて言葉があるけれど、私を含め周りが異性を意識するようになったのも、確かその頃だったような気がする。
「バスケ🏀部の〇〇くんとテニス🎾部の〇〇さんが付き合ってるらしいよ」
なんて噂話が出るようになってきたのも確か、その頃。
部活後、それまで仲間で下校していたのが、
「ごめん、俺、ちょっとさ…」
なんて言いながら彼女との待ち合わせ場所に向かう奴らがちらほら出始め、連れ立って彼女の家まで送って行く、
ただそれだけのことなのである。
そして残されたものは自分に彼女がいない寂しさというよりも、むしろ自分が大人の仲間入りができずに取り残されているという焦りのほうが強かったのである。
今思えば「付き合う」定義なんて結局は2つだけ。
1つめは「一緒に下校する」👫ことと
もう一つは「交換日記」📖だった。
交換日記📕
なんて、ワクワクする響きだろう。
「一緒に下校する」のは公認の仲だけど
交換日記はバレることがなければ、彼女と2人だけの秘密となり、「大人度合い」は数段アップし、仲間をちょい見下せるような優越感に浸ることができるのである🫢
さて、
私は野球部⚾️
由起ちゃんはバレー部🏐
由起ちゃんは常に輝いていた✨
彼女のポジションはセッターで、キャプテンに就任したばかり。
容姿端麗はもちろんのこと、性格も良く、常に笑顔で周りからの信頼も厚かった。
そんな彼女のことを周りの男子だけでなく女子さえもが憧れていた。もちろんその中には密かに想いを寄せる私もいるのだが😚
問題は、彼女はバレー部の一番手👸
なのに私は野球部の中ではエースでもなく、容姿も、勉強も一番手ではなかった🤷🏼
そんな私が告白してもうまくいくはずがないとたかを括っていたし、
「バランス」という意味においても、周りが納得するはずがないことを私自身が一番良く知っていた😭
でもそんな私が唯一ライバルたちに優っていた分野ある。
そう、関西人として最も大切なもの、
「笑い」だ。
幸いにもクラブの会議や、生徒会活動などで由起ちゃんと接する機会が多かったり、比較的家が近所だったため、塾帰りに彼女と一緒になり夜道を自転車で帰るということもあった。
そんな時、私は彼女の気を引くため、いつも面白いことを言った。
そして、それに応えるかのように、彼女もまた楽しそうに、たくさん、笑ってくれた🤣
そして、そんな時は必ず「あきくんってやっぱり面白いね」って、輝きオーラ満開⚡️で言ってくれた。
私はそれで十分幸せだったし、それ以上は望むべくもないな、と納得していたのだ。
ところが、ここから事態は思わぬ方向へと展開することとなる。
たまたま、大阪に遊びに行った際見つけたこの鍵つき、ディズニーのハイカラ😅な交換日記📓
※ 40年以上前のものとなるのだが、よく見ると現代のミッキーと顔のタッチが違うような気がする。(しかも右側のミニーでもないミッキーの弟みたいなやつ、これ誰?🤣)そういえば、国や地域によって、美的感覚や好みが違ったりするので、現在でもディズニーのキャラクターには、アメリカ向け、日本も含めたアジア向け、ヨーロッパ向けとでそれぞれ違うイラストレーターがいるらしいことを聞いたことがある。だから微妙に顔が違ったりするのだとか🤫
田舎者あるあるなのだが、都会に行って珍しいものがあるとつい買ってしまう。
田舎に戻り、自慢ができるからである😗
私は何を思ったことか、相手もいないくせに、その「先進的」で「オシャレ」な鍵つき交換日記を購入してしまった。
果たして…、
「あれ、お前どうしたん❓ひょっとして…」なんてモテないメンバーズに言わせてやろう、ミエをはってやろうと思いカバン🧳に忍ばせ塾へと持ってきたこの日記は、たまたま隣の席になった由起ちゃんに目ざとく見つけられることとなるのである。
「あきくん、それ、何❓ちょっと見せて」
予想外の展開に焦り、無言で手渡す私。
「鍵付き…これ、交換日記じゃん。どこで買ったの❓」
「大阪だよ」
「かわいいね、これ🤗」
タイミングや勢いというものは怖いもので、この後私は信じられない提案を彼女にするのである。その後の人生において1度も「告白」たるものをする勇気がなかった私が、だ。
「…んじゃ、やってみる❓」
「えっ‼️」
「交換日記、俺と…」
彼女の目を見ることなんて出来ずに、前を向いて言った。
同時に「空気を読む」なんて表現がまだまだなかった頃の時代にもかかわらず、その場の雰囲気に耐えきれず、私はすかさず
「なーんてね…ははは😵」
と精一杯、ぎこちなく、作り笑いをしたのだ。
その日の夜は、嬉しい気持ちと、彼女の真意がわからないという疑念と、大人の階段を1歩だけ登れたような充実感が入れ混じり、眠れなかったことは、言うまでもない。
けど、私は本当に、本当に、金曜日まで自分1人だけの夢心地、幸せな気分で過ごした🥳
迎えた金曜日、塾終わりに路地裏で由起ちゃんと待ち合わせをし、日記を「交換」してもらうことになるのだが、信じられないような不幸に見舞われることになるのである。
「あきくん…これ…😔」
「おう、ありがとう😆」
次俺の番だよね、なんて答えようとしていると、由起ちゃんはおもむろにこう言った。
「ごめんなさい🙏」
「え…❓😳」
「お母さんに見つかっちゃったの。それでお母さんがこういうことするのは高校生になってからにしなさいって、言われちゃって…」
私は奈落に突き落とされたかのような絶望感にさいなまされた。
「ホントにごめんね」
「そんな、気にするなよ、俺もおばちゃんの言う通りやと思うよ…、はは、はははっ」頑張って、むしろそれを期待していたかのように、笑って言えた、はずだ。
そして内心、私なんかに突然あんなお願いされて、断りきれずにこういうクッションを挟んでくれたであろう彼女に対して悪いことしたなぁ、という気持ちと
これで、またモテないメンバーズに逆戻りするばかりでなく、やっぱり自分は一生恋愛面では「負け組」の人生を送るんだろうな、という気持ちが交錯し、とにかくその場をやり過ごすしかなく「じゃあな」と言って彼女に背を向け、帰ろうとした。
「あきくん!」
「…え❓」
「あの…私ね、最初のページ📄、書いたんだ。だからね、だからもしよかったら、高校に入ったら、続きどうかなって…それまで、恥ずかしいから読まないでね」
「了解👌」私は後ろも振り向かず、そのまま自転車🚲でその場を走り去った。
私に気を遣ってくれたのか、それとも…。
おんなゴコロって…。
「わけわからんー‼️」
田んぼのあぜ道を疾走しながら、こおろぎの合唱に負けないように、叫んだ。
当然のことながら、成績の良い由起ちゃんと同じ高校に進学できるべくもなく、このディズニーの交換日記は、鍵をかけた状態のまま、私の勉強机の引き出しに入れられ、いつしか私の記憶からも完全に消えてしまうことになるのである👒
先日、実家を訪れた際、私はたまたま勉強机の引き出しの奥から、この色褪せた日記を見つけ、手にとりながら当時のことを懐かしく思い出した。
そして、今更ながら、最初のページには何が書かれているんだろう、と興味を持った。
鍵はかけられたままで、もちろん鍵はどこに行ったかわからない。けど…帯はハサミで簡単に切れそうな感じがした✂️
どうしたものかな…。
しばらくの間、私は表紙を見つめていた。
「コーヒー淹れたよー」階下からの母の声。
私は、ふふっと笑って、そのまま元あった引き出しの中に日記📓をしまった。
そして「はーい」と返事をして階段を降りながら思った。
「最初のページを読むことは一生ないだろうな…」
母のコーヒーは、いつもより、ちょっぴり、ホロ苦かった…☕️