Xは、旅館業法3条1項に基づく許可(以下「営業許可」という。)を得て、旅館業を営んでいたが、同法によって義務付けられた営業者の講ずべき衛生措置を講じなかったことを理由に、所轄都道府県知事から、同法8条1項に基づく許可の取消処分(以下「取り消し処分」という。)を受けた。

 

■Xに対してなされた取消処分は、適法になされた営業許可について、その後に営業者が法律に違反したことを理由に、将来に向かってその効力を消滅させる行政行為であり、講学上の「行政行為の撤回」に当たる。

 

■行政手続法上、「処分」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいい(2条2号)、「不利益処分」とは、行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、またはその権利を制限する処分をいう(2条4号本文)。Xに対してなされた取消処分は、独立の行政行為であって、行政手続法に定める「不利益処分」であり、行政手続法の定める「処分」に当たる。

 

■Xに対してなされた取消処分が取消判決によって取り消された場合には、取消判決の形成力により、はじめから当該取消処分がなされなかったのと同様の状態になる。Xは、営業許可がなされた状態に復し、従前どおり営業を行うことができる。

 

■Xに対してなされた取消処分は、講学上の「行政行為の撤回」に当たるものである。Xに対してなされた取消処分によって、Xに対する営業許可は、将来に向かってその効力を失うことになる。

 

■Xに対してなされた取消処分は、行政行為(営業許可)がなされた時点では瑕疵がなかったが、その後においてそれによって成立した法律関係を存続させることが妥当ではない事情が生じたときに、当該法律関係を消滅させる行政行為であり、講学上の「行政行為の撤回」に当たる。

 

旅館業法

第3条 

①旅館業を営もうとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長。第4項を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない。ただし、旅館・ホテル営業又は簡易宿所営業の許可を受けた者が、当該施設において下宿営業を営もうとする場合は、この限りでない。

②都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき、当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるとき、又は申請者が次の各号のいずれかに該当するときは、同項の許可を与えないことができる。

一 心身の故障により旅館業を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

二 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

三 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律若しくはこの法律に基づく処分に違反して罰金以下の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して3年を経過していない者

四 第8条の規定により許可を取り消され、取消しの日から起算して3年を経過していない者

五 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から起算して5年を経過しない者(第8号において「暴力団員等」という。)

六 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人(法定代理人が法人である場合においては、その役員を含む。)が前各号のいずれかに該当するもの

七 法人であつて、その業務を行う役員のうちに第1号から第5号までのいずれかに該当する者があるもの

八 暴力団員等がその事業活動を支配する者

3 第1項の許可の申請に係る施設の設置場所が、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。以下同じ。)の周囲おおむね百メートルの区域内にある場合において、その設置によつて当該施設の清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるときも、前項と同様とする。

一 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除くものとし、次項において「第1条学校」という。)及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第2条第7項に規定する幼保連携型認定こども園(以下この条において「幼保連携型認定こども園」という。)

二 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条第1項に規定する児童福祉施設(幼保連携型認定こども園を除くものとし、以下単に「児童福祉施設」という。)

三 社会教育法(昭和24年法律第207号)第2条に規定する社会教育に関する施設その他の施設で、前二号に掲げる施設に類するものとして都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市又は特別区。以下同じ。)の条例で定めるもの

 

第8条

道府県知事は、営業者が、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律に基づく処分に違反したとき、又は第3条第2項各号(第4号を除く。)に該当するに至つたときは、同条第1項の許可を取り消し、又は1年以内の期間を定めて旅館業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。営業者(営業者が法人である場合におけるその代表者を含む。)又はその代理人、使用人その他の従業者が、当該旅館業に関し次に掲げる罪を犯したときも、同様とする。

一 刑法(明治40年法律第45号)第174条、第175条又は第182条の罪

二 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)に規定する罪(同法第2条第4項の接待飲食等営業及び同条第11項の特定遊興飲食店営業に関するものに限る。)

三 売春防止法(昭和31年法律第118号)第2章に規定する罪

四 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2章に規定する罪