耳の話 その11 尚美にて(2) | 小迫良成の【歌ブログ】

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「有歌声的生活(歌と共に歩む人生)」
 この言葉を心の銘と刻み込み
 歌の世界に生きてきた
 或る音楽家の心の記憶

1980年、尚美受験科在籍時。

 

あれは81年の年明けだっただろうか、

…いや、多分80年の年末だと思う。

 

尚美受験科の試演会があった。

 

受験を控えての試演会なので

多くの学生は志望校の受験曲を歌ったが、

試演会用にと須賀先生が選んだ曲は

オペラ「フィガロの結婚」のアリア

「もう飛ぶまいぞ」だった。

 

翌年の国立音大の入試では

歌ったのがイタリア古典歌曲だったし、

須賀クラスの生徒全員で受けた

東京藝術大学の入試に

自由曲として提出したのは

確かVerdiの歌曲だったので、

この試演会で歌った

モーツァルトのオペラアリアは、

全く受験とは関係のない

ただの習作用の曲ということになる。

 

私にとっては初めてのオペラアリアで、

尚美時代に購入した唯一の音楽カセットも

この曲の参考音源として聴くのが目的だった。

 

この頃の私の歌の習得方法は

1.大まかな音取りと発音チェック

2.単語の意味調べと大意の把握

3.楽譜の書き写しによる

  細かな演奏指示の再チェック

という手順で行っていた。

 

基本的に

「イタリア古典歌曲」のノリと

全く同じで

「与えられた楽譜の中から

 できる限りの情報を拾い出す」

というものだった。

 

なので、

楽譜以外の事については

視野に入っていなかったと言って良い。

 

オペラ由来の曲だといっても

実際にそのオペラの全幕を

現在上演されることがなく

事実上の歌曲扱いだった

「イタリア古典歌曲」

の中のアリアならば、

まだそれでも良かったし、

チクルスとして扱われていない

ベッリーニやドニゼッティ・

ヴェルディの歌曲なら

特に問題にもならなかった。

 

それらと同じ手法で

「フィガロの結婚」のアリアを

その部分だけ譜読みし、暗譜し、

試演会で歌ったのだ。

 

本人的には

かなり満足する出来だった。

 

歌詞の意味も

表現の起伏の中に含めたし

曲全体の起承転結も

本人なりに上手く出すことができた。

 

試演会を聴きに来てくれた

ソルフェージュの西村朗先生は

「うん、何の曲を歌っているかは判った」

・・・と、

妙にニヤニヤしながら

褒めてくれたのが気になったが、

まあ、あの先生は

「ケチャ」なんてアフリカの民族音楽を

ソルフェの授業で熱く語ったり、

リズム調音で11連符なんて課題を出して

面白がったりする変わり者だしな、

あまり気にしないでおこう・・・

 

・・・と、気楽に考えていた。

 

(続)

 

※写真は当時使っていたソルフェ教材