妻の貌 | 映画感想 テーマは、女性・老人・子ども・ジェンダー・セクシャリティー・マイノリティー・働くこと・・・etc

妻の貌


広島在住の映像作家、川本昭人さんが半世紀にわたって撮影してきた妻と家族の記録。長男誕生をきっかけに8ミリフィルムを回し始め、原爆症に苦しみながらも子育てや義母の介護を続けた妻・キヨ子さんの日常を中心に、家族の50年に及ぶ歴史を見つめていく。


これは、アマチュアが撮ったフィルムなんだけど、記憶に残るものだった。内容は、原爆症の妻の日常を撮ったもの。といっても、原爆の悲惨さを声高に主張するのではなくて、それはずっと後景に退いていて、描かれるのは子どもの誕生から成長、結婚、孫の誕生・・などのまさしくホームビデオ。


妻は原爆症によるしんどさ、疲れやすさを訴えながらも義母(夫の母)の介護を一生懸命する。そんな妻に対して夫ができるのは月1回の定期健診に妻を車で病院に送っていくことだけ。


映像は、義母の介護をしながら家事をしたり、おはぎを作ったりする妻の日常が淡々と映し出されるのだが、一度だけ妻が夫に対して感情を吐露する場面がある。

妻は、「あんたは、私を撮ってそれを仕事にしているだけだ」と非難する。そして、義母が亡くなって夫が、これで妻も重荷から解放されたと思う夫に対して妻は言う。

「あんたは何もわかってない。おばあちゃんは私の生きがいだった」と。


そこからは、夫が考えているような嫁姑関係や介護の負担ではなく、義母の介護が妻にとって生きがいとなっていた現実が見える。

妻にとっては、夫よりも義母との関係のほうに、はるかに強い絆があったのだ。

そこに見えるのは、夫婦の意識の底深い断絶だが、この映画がすごいのはそのことを忠実にそして淡々と夫が映しているということなのだ。