前回までは、テクニクスのアンプについて書いた。
オーディオの要はアンプとスピーカーで残るはスピーカーだ。
スピーカーとは車でいうとタイヤみたいな物で、地面に接地して最終的なエンジンからの動力を伝えるのと同じように、
音を耳へ伝える最も直接的な役割を果たす。
前回のテクニクス同様、B級とういうコンセプトゆえに、なるべく安くていい物を組み合わせたいのだが、
これが難しい。
スピーカーは一つ一つの個性がはっきりしている。
アンプやCDは料理で言うと原材料みたいなもので、はっきり言ってよほど、食べ比べをしないとわからない。
あるいは調理時間みたいなものでもあり、火の入れ加減、混ぜ具合、であり、比較対象がないと評価が難しい。
スピーカーの役割は調理人の味付けだ。
塩加減、素材の量に該当して旨い、不味いはここで決まってしまう。
女性の外観で例えると化粧みたいなものだ。
基本的な肌のコンディションや、顔立ちもあるだろうが、化粧の仕方で全く別人のようになれる。
同一人物でも化粧のテーマが変わると、ガラっとイメージが変わってくる。
よって、スピーカーで明るい音色になったり、暗い物憂げな表情になったり、低音が利いて迫力が出たりとその影響は様々だ。
今までスピーカーはいくつか試したが、ほとんど失敗に終わっている。
詳細はまた書きたいと思うが、ここでは書ききれない。
関東にはハードオフという素晴らしい中古ショップがあるが、スピーカーの出物はあまり有名な物は出てこない。
また、スピーカーは聞いて見なければその良さはなかなか解らないので、中古なので聞かせてもらうわけにもいかず、聞いてからがっかりする事も多い。
そんな難しいスピーカー選びだが、2年前のある日に千葉に住んでいる頃、秋葉原へと向かった。
いくつかのスピーカーを試していて、上手くいかず疲れていた。
やはり、聞いて見なければわからないので、中古は諦めて新品を安く買えればいいと思ったのだ。
秋葉原で視聴させてもらえるショップを知らなかったし、あまりマニアックなところでは安い物は嫌がられそうなのでアーケード街の露店ショップの様なところで落ち着いた。
たくさんのスピーカーが並んでいる。
なるべく小型で、低音がその割には出て、ツイーターはメタルの物が良かった。
セレッションのチタンツイーターが最高に好きだった。
あの高音には鳴っていない様で、しかし非常に明瞭な、かつ、温かみがありまろやかな不思議な音。
しかし、セレッションは最近では少なくとも安くは置いていない様だ。
何かいい物は無いかと物色した。
評判のいいのはエントリーS、コンコルド、モニターオーディオ等か。
日本製はその頃は興味が無かった。
日本製は大抵がシルクドームツイーターでウーハーは混ぜ物系の素材だ。
バラードには向くかもしれないが当たり障りの無い音で何かのジャンルでびっくりすような音は出ない。
箱の構造もあまり特別な仕掛けは無く、ネットワークもフィルムコンデンサーが少し入っている程度だろうと思っていた。
最近はパイオニアのピュアモルトや、ビクターの物や、KENWOODのKシリーズ用の物等、安い物でも粒が揃ってきている様だが、2年前にはまだパッとしなかった。
機会があればまた聞いてみたいと思うが、とにかくその頃は海外製がほしかったのだ。
モニターオーディオが金属製のツイーターだったので聞かせてもらった。
かなり高音がきつい。
ブリキを叩いたような音だ。
多分嫌になるなぁ、と思った。
突然、老店員がシステムを聞いてきた。
当時はSANSUIのα607Lだ。
さすが、泣く子も黙るSANSUIブランドの品番を老店員は覚えていた。
カバンで言えばどこなのはよくわからないが、日本の最高なアンプブランドであるのは間違いない。
ただ、もうメーカーが潰れている事と、ヤフオクで6000円というのが悲しいところか。
老店員はアンプを聞いて猛烈に話し出した。
駆動力があるアンプだからそれに答えるスピーカーがいいから超小型じゃなくてもいいという話だった。
私は小型で金属製のツイーターで解像度が高く、低音が出る物が欲しいといった。
今考えると非常に贅沢だ・・・
そんなものあるのか、たった3万程度の予算で。
しかし老店員は自信満々に「今ならこれ」と指さしたのは、
B&Wだった。
でた。
いいのはわかる。
そんな事はずっと前から知っている。
なぜなら、その日からさらに5年前に、大阪日本橋の、とあるオーディオショップで全く同じ要望をした時に、
B&Wの8万くらいの物を自信満々に店員に進められて視聴させられたからだ。
当時は予算5万円で、びっくりするくらい音は良かったがとても買えなかった。
その後、オーディオ雑誌で見てもB&Wはよく載っていた。
海外SPで最新後術のトップメーカーとして最も勢いのあったメーカーだ。
当時の記憶を思い出しつつ、老店員のお勧めするB&Wをあまり、気乗りしないまま見てみた。
サイズはまぁ小型だ。
ウーハーは黄色いケプラーコーンだ。中央からはユニコーンの角のような物が生えている。
不要な低音を拡散させるアコースティックデュフューザーとして効果があるだろう。
ケプラーは防弾チョッキの素材。軽くて硬く内部損失に優れている。
その音は低音が出やすく、聞きやすいだろうが、少しカサついたボーカルだろう。
ツイーターは金属だがチタンではなくアルミっぽい。
一歩間違えば、下品で甲高くて、聞くに堪えない音が出るだろう。
一応、カーオーディオを販売する仕事をやっていたので、そんな評価はすぐに出てくる。
っていうか、構成がパイオニアのカー用スピーカーそのものだ。
そんなライバルメーカーの物なんて嫌だ。
というのが第一印象。
音を出してもらうと、これが意外にバランスが良かった。
視聴曲がよくわからない海外のPOPSで置き方も雑で、耳から下にあったので、
しかも周りがうるさい環境で、ちっとも視聴には適していなかったが、
少なくとも低音の量は箱の割にはよく出ていたし、高音は広がりがあるようだった。
しかし、高音がドライで潤いが無いように聞こえた。
しかし、他のスピーカーと聞き比べたところ一番バランスがいいような気がした。
他とは比べて、低音の出が特に目立っていた。
悩む私に老店員はアクセル全開だった。
「このスピーカーはセッティング次第で音が非常に変わる。扱いは難しいが素直なスピーカーなのでアンプの良し悪しもはっきりと効果が出る。使いこなす喜びがある優秀なスピーカーだ」
「5万円前後ではこの音質は出ない。この価格なら間違いなくお勧め」
「B&Wは世界で認められている。高級スピーカーの技術がこれには使われていて、緻密なコンピューター技術で科学的に設計されているから良い音が出る」
お前、マランツのヘルパーか?
と、内心思ったが、店員は威風堂々としていた。
店員さんならどれを買う?
と聞いてみて、あまりにもはっきりと「これを買う」と言い切るのと、
4万5千円が3万3千円になるという財布事情も考慮したダメ押しがあったので、
あっさりと持ち帰りで買う事になってしまった。
静かな環境でのお気に入りのCDでの視聴をしなかったので、いささか不安ではあったが、
「ほんとセッティングは色々やってみてください。音がかなり変わってきますから」
という、親切な店員の一言が嬉しくて、
この人から買って良かったかも。
と、思ってしまった。
こうして、たった3万円ばかりで、めでたくB&Wユーザーとなった私だが、
DM600 S3
ほぼ、衝動買いだったこいつが、まさかこんなにポテンシャルを秘めていたなんて。
その後、自室システムに接続して驚愕する事になる。

