門天お清(もんてんおきよ)    作・阿方紀世

 昔昔(むかしせき)、都山奥(みやこやまおく)兄妹有りき、兄は門天妹お清、門天二十七木樵で猟師、お清
十七歩き歩いた巫女神様じゃ。
 兄の門天お清に惚れた。妹お清も門天に惚れた。
 思い余った門天殿は、闇夜に紛れてお清の寝床(ねや)に忍んで御座る。
 雲千切れて満ちたる月が門天照らし、明かりの下でお清が責めた。
「何をしやした門天様よ、二人は真の兄妹で御座る。これが知れたら三千世
界、二人は生きては行けぬ」
 哀しお清は旅に出た。
 一月二月(につき)、三(み)月と三(サン)月六(む)月の末に、遂にお清が帰って御座る。
「実は兄様私にゃ・・・男が出来た。年は二十一虚無僧でおじゃる」
「虚しく彷徨う虚無僧等は諦めて下されお清様。晴れて二人は夫婦となれる」
「それに兄様、虚無僧殿は、私を捨てて長者の婿じゃ。更に兄様、私の腹にゃ
憎い男の種がおる。恋しい男の子どもがおじゃる」
「おのれ虚無僧、愛しお清を汚した上に、美し(いと)き妹捨てて長者に成ったとな、
許せぬ許せぬ、断じて許せぬ」
「それでは兄様願いが御座る。憎(にっく)き虚無僧殺しておくれ。ならば私は一夜(ひとよ)二夜(ふたよ)に、三夜(さんよ)はおろか、永夜(とわ)にお前の女房で御座る」
 聞いた門天おっとり刀に猟銃抱え、憎き虚無僧撃ち殺し、その首落として抱
えて走り、お清の前に突き出した。
「何をしやした門天殿よ、私ゃ憎き虚無僧よりも、遙かにお前が憎い、愛しき
男を殺したお前が憎い」
 哀れなるかな門天殿は、狂った挙げくに美(いと)しきお清を突き刺した。
 哀れなるかな門天様は己の首をも斬り落とし、愛しきお清に捧げて果てた。
 哀れ兄妹、門天お清、お清門天兄妹心中。
             門天お清・完