先日、6月2日にオンラインで行われた「豊崎由美の書評道場」のために書いた書評を、以下に転載します。

 

当日の講座で、いろいろなご意見をいただいて、とても刺激的でした。

受講生のみなさんのご意見を参考に、一部改稿して掲載します。

 

 

NHK朝ドラ「虎に翼」にハマっている人にオススメする三冊

『化学の授業をはじめます。』ボニー・ガルマス著 鈴木美朋訳(文藝春秋)

『才女の運命~男たちの名声の影で~』インゲ・シュテファン著 松永美穂訳(フィルムアート社)

『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著 くぼたのぞみ訳(河出書房新社)

 

 

 




高校生の後輩「ちょっと先輩、聞いて下さいよぉ! パパがひどいこと言うんです!」

大学院生の先輩「また叱られたの?」

後「違います! 学校で進路希望調査があって、どう書いていいかパパに相談したら『女の子だから、がんばっていい大学に行かなくてもいい』とか言うんですよ。寅ちゃんみたいに『はて?』って言っちゃいました!」

先「寅ちゃん? 誰? はて?」

後「先輩、観てないんですか、朝ドラの『虎に翼』? めっちゃ面白くて最高ですよ」

先「朝ドラねー。観てないなぁ。最後に観たのは『あまちゃん』かな」

後「『あまちゃん』って保育園の時ですね」

先「じぇじぇじぇ! 一気に歳の差を感じてしまう……おっと、どんな相談だっけ?」

後「パパにガツンと言い返したかったけど、何も言えなかったのが悔しくて……。パパを説得できるように、元気が出て後押ししてくれるような本、教えて欲しいんです」

先「なるほどね。じゃあ、つい最近読んだ小説がオススメだよ。ボニー・ガルマス『化学の授業をはじめます。』。全世界で六百万部突破の大ベストセラー小説だね」

後「ベストセラーとかナントカ大賞受賞とか聞くと、逆に冷めちゃうんですよねー」

先「めんどくさいなぁ。まあ聞いて。舞台は一九五〇年代末のアメリカ。主人公エリザベスは優秀な化学者だったけれど、当時は女性研究者なんて全然認められない時代。さらに彼女は教授から性暴力を受け、しかも被害者の彼女のほうが逆に責められてしまう」

後「はぁっ? エロ教授の股間を蹴り上げて、キ◯タマつぶしてやりたいですっ!」

先「過激だなぁ。でも、不屈のエリザベスとは気が合うね。彼女の苦難は続くの。研究所の上司からパワハラを受け、しかも研究成果を奪われてしまう。そんな中、互いに尊敬できるパートナーと巡り合うけど、結局彼女はシングルマザーになり、仕事も失ってしまう」

後「ぐぬぬぅ……ひどい、マジで許せん!」

先「まあ落ち着いて。エリザベスは絶対に屈しない。ひょんなことからテレビの料理番組の先生役として抜擢されて、ここからが超絶爽快! テレビ局は『セクシーな奥さん』を演じさせようとするけど、当然そんなのガン無視。『料理は化学です』と断言して、塩を塩化ナトリウムと呼んで、お酢はCH……」

後「CH3COOHですよね。酢酸の化学式」

先「お、さすが現役高校生。エリザベスは料理番組を超えた番組を作っていくの。科学化学を信じて誰にも媚びずに突き進む彼女の姿に、視聴者も周囲の人たちもどんどん勇気づけられ、感化されていく。そこが痛快!」

後「エリザベスも寅ちゃんみたいに、男の人が作ってきた歴史の中で闘ってたんですね」

先「そう。エリザベスは架空の人物だけど、現実の歴史で存在を消された女性たちに光を当てるのが、インゲ・シュテファン『才女の運命』。歴史上の『偉人』って、男の人ばっかよね。でも『偉人』と呼ばれるアインシュタインの妻がどんな人だったか知ってる? 作曲家シューマンや作家トルストイや経済学者マルクスの妻も、みんなとても優秀な人たちだったんだ。『◯◯の妻』とだけ呼ばれ、名前も才能も奪われてきた女性たちの声を今の時代に伝えてくれる名著だよ。必読!」

後「えーっ、知らなかった。優秀な女性って、昔からたくさんいたんですね!」

先「当たり前でしょ! 次のオススメが、ナイジェリア出身の作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの講演を書籍化した『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』。お説教くさくなく、ユーモアを混じえて楽しく『男女関係なくみんなで世の中をよくしていこう』と勇気づけてくれる本だよ。元の講演はネットで観られるよ。わたしは彼女の短編小説集『なにかが首のまわりに』も大好きだな!」

後「わー元気出てきた! 全部読みます。さすが先輩、亀の甲より年の功ですね!」

先「……はて??」

(想定媒体・週刊誌)