Facilitation(促通)について

 中枢神経麻痺に対する各種のアプローチを言う。厳密にはその内容はFacilitationでけでなくinhibition(抑制)も重要な要素として含まれている。そのため現在では「神経生理学的アプローチ」と呼ばれたり、また脳性麻痺等の場合には「神経発達学的治療法(neurodevelopmental treatment:NDT)」と呼ばれたりする。中枢疾患の治療的アプローチの代表的なものとしては、Bobath法、Brunnstrom法がある。前者は成人麻痺と脳性麻痺の両方に用いられ、後者は主に成人片麻痺に用いられる。その他Vojta法、Kabat&Knottの自己受容性神経筋促通法( proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)などである。これらはVojta法を除き、いずれも1940年代前半には提唱されていたものである。
 しかし個々の体系は、個別的な視点以外にも多くの重なり合った概念を持っている。麻痺している部分に対して促通するという単純な発想から中枢神経系による運動学習への展開まで、範囲は広範であるが、各体系に共通した概念を持っている。それは以下のようになる。

・中枢神経系の促通と抑制

・感覚入力への操作

・部分より全体に注目

・神経発達学的概念の応用

系統発生

個体発生

固体発達

中枢神経系の発達

階層論

・学習理論の応用
 
 神経生理学的アプローチの多くは、中枢神経系への働きかけを意図したものである。末梢器官への刺激、すなわち感覚入力の操作によって中枢神経系への影響を及ぼし、不足した正常の要素を促通し、異常な反射機構を抑制しようとする。入力も得られる効果も全体に注目し、姿勢反射や運動発達などを通して脳の発達がどのレベルにあるか検討しながら、その更なる構築を目指す。近年の運動制御・運動学習理論の発達は従来の神経生理学的アプローチの様相を一変させる勢いである。

<促通>

 シナプス前線維のAまたはBの単独刺激ではおのおのの発射圏にある2個のニューロンしか興奮しないが、AとBを同時に刺激すると閾下縁(閾下刺激による局所興奮の場)が重なりあってる場にある2個のニューロンも閾値に達し6個のニューロンが興奮する。これを空間的促通という。一方、同一のシナプス前線維のみを時間的にずらして2つの刺激すると閾下縁内の局所興奮が重なって閾値に達し、第2刺激に対して4個のニューロンが興奮する。これを時間的促通という。臨床的に、空間的促通は手関節と肘関節の同時収縮(牽引など)に使用されており、時間的促通は同一の関節に対し、時間的にずれたすばやい刺激を2回以上加えることで応用されている。

<抑制>

 あるニューロンを刺激するとシナプスの興奮の伝達が阻害されることがある。これをシナプス伝達の抑制という。このニューロンを抑制ニューロンといい次の2つに分けられる。Eを刺激すると興奮はPに伝わるがEの興奮がシナプスに達する直前にIを刺激するとEの興奮はPに伝達されなくなる。(A)では抑制ニューロンはシナプス後部膜に影響を与えるのでシナプス後抑制といい、(B)では抑制ニューロンがシナプス前線維の末端に働きかけるのでシナプス前抑制という。


 理学療法上、末梢からの刺激によって運動ニューロンの閾値を低下させることが促通であり、上位中枢からの解放現象(痙縮など)に対して、運動ニューロンの閾値が上昇するような操作を加えることが抑制ということも出来る。


<皮膚刺激が運動器へ及ぼす機能>

 皮膚抑制に関しては、Oscarssonが、外受容器である皮膚受容器からの刺激げ運動ニューロンを抑制する理論として、屈曲反射求心線維と呼ばれるなかの閾値の低い皮膚神経や関節受容器の線維は、α運動神経を抑制しγ運動神経を促通すると報告している。これは、外界からの皮膚刺激が、運動の修正機能として働くことによる。
 皮膚促通に関しては、刺激された皮膚と同側表面の筋が収縮を起こす。同側性伸展反射を応用した運動促通理論として、屈筋は四肢のどこを刺激しても収縮するが、拮抗筋の表面の皮膚を刺激した場合はかえって抑制される。これに反し伸筋は四肢のどこを刺激しても抑制されるが、その筋の表面を刺激した場合は興奮する、という原理である。
 関節と皮膚に関しては、Brooksらが、多くの細胞が皮膚入力を受け(65%)、一部は関節の動き(20%)に応じるものがあり、これは錐体路や非錐体路で差異がなく、約半数の細胞は感覚刺激の種類に特異性の高い受容野を持ち、残りはかなり広い受容野を持つものであったと報告している。津山は、深部感覚に皮膚感覚が大きく関与していると報告している。
筋と皮膚に関しては、SakataとMiyamotoは、筋収縮を引き起こす皮膚部位にある細胞は、収縮によってひきのばされた側の皮膚や関節の伸張によって興奮を受けるもの、Asanumaらは、逆に収縮する側の皮膚からの入力を受けるものが存在すると報告している。また、皮膚感覚の機能の局在は、StickとPrestonが、皮膚刺激で起こる筋収縮と抹消体性感覚入力の関係は、両者はほぼ同じ体部位に一致すると報告している。