TBSチャンネルでは8月6日から『夜明けの刑事』を放送開始する。

 

夜明けの刑事|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

大映テレビによる制作で、1974年10月2日から1977年3月23日まで二年半に渡って水曜8時枠にて放送されていたもの。終了後も主演の坂上二郎が演じる鈴木刑事と彼が働く警視庁日の出署刑事課の設定は変えずに引き続き同枠で『新・夜明けの刑事』(1977年3月30日~1977年9月28日まで)→『明日の刑事』(1977年10月5日~1977年10月10日まで)と番組タイトルや廻りの出演者を微妙に変えながらも、五年間のロングランを誇ったシリーズを形成した。

 

《結果発表!》TBSチャンネル2「大映テレビドラマ総選挙~最終話見てリクエスト!~」 第1位「顔で笑って」ほか計5作品を11月から全話一挙放送! | 株式会社 TBSテレビのプレスリリース (prtimes.jp)

 

2015年、TBSチャンネルで当時のAKB48ブームに倣って「大映テレビドラマ総選挙」という視聴者投票で見事第3位になったことから同年末より放送されて以来久々。そのときは『夜明けの刑事』のみだったが、今回の放送では願わくば、先述した続編の『新・夜明けの刑事』と『明日の刑事』の放送も期待したいところ。

 

新・夜明けの刑事|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

明日の刑事|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

さて、この『夜明けの刑事』は、どんな刑事ドラマだったのか?

 

主演に抜擢されたのは、本作が初主演となる坂上二郎で、言っちゃ悪いが刑事ドラマにおける主人公の必須条件たる“格好良さ”とは懸け離れた風体だったり、当時流行っていたアメドラの『刑事コロンボ』から“和製コロンボ”とも言われてはいたのだけれども、古畑任三郎のように切れ味鋭く犯人のアリバイや証言を覆すものなんかでもない。

 

坂上二郎 茶の間を思いっきり泣かせたかった「夜明けの刑事」(2/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

 

刑事ドラマの第一条件である、足を棒にして証拠を探し出したり、人情と誠意で証人の心を開いたりして、そこに“スッポン刑事”との異名で「こいつはクロだな!」と刑事の勘が働くと喰らいついたら離さない粘り強さで犯人逮捕に導くという筋立てである。

 

石橋正次が最初期の主題歌も担当

ジャケットには、劇中でも着ている、刑事らしくないワイン色のスーツ姿

 

で、こんな地味な鈴木刑事を取り巻く刑事課の面々が対照的に賑やかなのである。石立鉄男演じる課長=ボス役は“べらんめぇ”調の親分肌で通す正義感の塊だし、当時歌手としても人気があった石橋正次演じる最若手刑事は鈴木刑事の相棒で、こちらもまた熱血漢で二人して脱線することもしばしば。それから現代っ子気質というか、刑事らしくない刑事に鈴木ヒロミツで、自分好みの美人が絡む事件以外は積極的でなく(笑)、先の石橋正次演じる熱血刑事とは対照的に、いつも自分だけは楽な仕事や安全圏を確保しようとしつつも捜査の鬼と化している課長にドヤされて損な役回りを引き受けざるを得なくなるというコメディリリーフを任されている。なお、この三人は前番組で同じ大映テレビが制作していた『事件狩り』(1974年4月3日~9月28日)にも、まんまそのキャラで出演していた。

 

事件狩り|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

『事件狩り』とは、石立が演じる、弱きを助け強きを挫く破天荒な弁護士とその弁護士事務所が舞台のアクションミステリーもの。この頃の大映テレビは日本テレビでやっていた『白い牙』など、杓子定規な捜査しか出来ない警察と対立して真実を暴き出す荒くれ集団を主人公側に置いた作風のものばかり作っていた。他の制作プロもこの手のものが多かったのだけど、徐々にそういうのはなくなっていく。

 

〇 1974年秋改編期における刑事ドラマ&アクションドラマ一覧

月曜 東京12『プレイガールQ』(制作:東映)

火曜 なし

水曜 TBS『夜明けの刑事』NET『特別機動捜査隊』(制作:東映)

木曜 NET『非情のライセンス』(制作:東映)

金曜 日テレ『太陽にほえろ!』(制作:東宝テレビ部)

土曜 TBS『バーディー大作戦』(制作:東映)、日テレ『傷だらけの天使』(制作:東宝・渡辺企画)

日曜 なし

 

上記したもののうち、太字にしたのが「刑事ドラマ」で、あとは探偵アクションの部類。まだ「刑事ドラマ」一色じゃなくて半々といったところか。1972年開始の『太陽にほえろ!』で、それまで「事件もの」と呼ばれていたドラマのジャンルが「刑事ドラマ」と呼ばれるようになり、1970年代後半から1980年代初頭の「刑事ドラマ」ブームを引っ張っていくのだけど、ブームというからには一作品だけでは務まらない。

 

『特別機動捜査隊』は『太陽にほえろ!』よりも遥か前から開始された長寿ドラマで、前述した「事件もの」ドラマを確立した作品のひとつ。だから、もうすっかり時代遅れで斜陽期に入っており、世の中の趣向に対して変化することは乏しく「刑事ドラマ」ブームそのものさえ乗れなかった。『太陽にほえろ!』開始の翌1973年から開始した『非情のライセンス』は主演の天知茂が大人のムードで魅せる一枚看板のドラマで、ゆえに観る人を選ぶドラマとなっており、これもまた「刑事ドラマ」ブームを象徴する作品ではなかった。やはり老若男女、すべてに向けてアピールしてこそ。『夜明けの刑事』は、若僧刑事からおやっさん刑事、そしてボスに至るまで刑事各々の個性が出ていたり、毎回のように人気者のタレントをゲストに招いたり、世間で流行っている話題の事柄をすぐさま物語に取り入れたりしたのが大きかった。

 

第2話「キャロル知らない奴はおくれてる」なんかはそれを象徴している。サブタイトルからして視聴者にアピールしてて、キャロルとは、あのロックバンドのキャロル、矢沢永ちゃんのキャロルである。永ちゃんはテレビへは滅多に出ないのではあるが、キャロル時代はお呼びが掛かれば、ドラマにだって出て台詞も言っちゃう。先に挙げた「大映テレビ選挙」第3位というのは、この永ちゃん出演を観たいファンが欲したのでないのかと。まあ、それくらい今となっては貴重。

 

CAROL (2) 夜明けの刑事 : 横浜パラダイス (livedoor.jp)

 

他にも、制作局TBSの関西における準キー局が朝日放送から毎日放送へとネットチェンジ、いわゆる腸捻転解消した直後の1975年4月2日放送となる第27話「夢の新幹線殺人事件」もこの番組ならでは。前月に新大阪駅から博多駅まで全線開通した山陽新幹線を舞台に、賑やかしのゲストではあるが、同じ大映テレビが制作の赤いシリーズ第一作『赤い迷路』終了直後でアイドル歌手としてもトップになりつつあった山口百恵や、本家『刑事コロンボ』で吹替を担当していた小池朝雄を刑事役で迎えて坂上二郎が演じる和製コロンボの鈴木刑事と対面させるなど、世間の気を引き、視聴率を獲れることならなんでも取り入れていた。

 

この1974年秋改編期開始の『夜明けの刑事』が当たったことにより、半年後の1975年春改編期に『俺たちの勲章』(制作:日本テレビ-東宝)と『二人の事件簿』(制作:朝日放送-大映テレビ)が、そして春改編期から少し遅れて5月より『Gメン’75』(制作:TBS-東映)が始まり、華やかりし「刑事ドラマ」ブームが始まるのである。

 

ワクシメの宝物

「刑事ドラマ」ブーム最中の1978年に発行された学習誌『中学一年コース』の付録

当時の日の出署シリーズは『明日の刑事』をやっていて

番組紹介とその出演者&演じるキャラが紹介されている

 

その「刑事ドラマ」ブームに入った中、番組が二年目に入る1975年10月から1976年4月までわずか半年間ではあるのだが、若き水谷豊が初めて刑事役を演じた刑事ドラマとして知る人ぞ知るトリビアにもなっている。

 

宇津井健と山口百恵、そして水谷豊の「顔で笑って」 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

大映テレビの制作ものとして初出演だった『顔で笑って』を経て、『傷だらけの天使』(制作:日本テレビ-東宝・渡辺企画)でブレイクし、その半年後、まさに人気者となって帰ってきたのだ。降板した石橋正次に替わっての最若手刑事だから熱血漢キャラ。でも、熱血刑事というよりは、後の熱中刑事となる片鱗を見せていて、毎回失敗を重ねるばかりで『太陽にほえろ!』の新人刑事よりも正直痛ましい。せいぜい、1975年11月5日放送の第47話「襲われた女子高生の恐怖!!」でウルトラマンレオこと真夏竜演じる遊び人の金持ちぼんぼん大学生が斉藤浩子演じる純朴な家出少女を甘い言葉で誘って自宅の高級マンションに連れ込んだところを乗り込んで慰み者になるのを防いだのが一番の手柄だ(笑)。

 

水谷豊は当初からの半年間出演で、本来ならばその降板直後から、同じTBSで始まる『火曜日のあいつ』(制作:東宝テレビ部)に主役で出る予定だったのだが、都内で撮っていた本作と京都太秦で撮っていた『影同心II』(制作:毎日放送-東映)の掛け持ちが祟ってダウンしてしまうアクシデントに見舞われてフイにしてしまった。

 

1976年4月、「火曜日のあいつ」と、その時代 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

水谷豊は去ったものの、番組のほうはノリにノッっていて、その時期にやった1976年9月22日放送の第86話「史上最強の空手 仕組まれた殺人のワナ」はとくにオススメしたい一編。かの大山倍達を本人役でゲストに迎えての大空手アクション回で、大山の義弟でもある藤巻潤、大山の門弟であり、現代劇から時代劇まで空手アクション回には必ずと言っていいほど“かませ犬”でキャスティングされる石橋雅史、そしてJAC所属の志穂美悦子らホンモノのことが出来る俳優らが大挙してゲスト出演。この頃、番組の売りともなった坂上二郎演じる鈴木刑事が下手な変装とバカバカしいキャラで潜入捜査するコメディー・シーケンスも活きていて、このカラテ地獄変にどう対処するのかも見どころなのである。

 

というわけで、TBSチャンネルの大映テレビ制作ものいつもの早朝時間帯での土日含めての連日放送となっており、そこで一年毎にやっている『噂の刑事 トミーとマツ』の第1シリーズ+第2シリーズ全106話を上回る全111話(第80話は欠番)。長丁場なんだけど、どうぞお楽しみに。