先日、TBSチャンネルで大映テレビ制作のドラマ『薔薇海峡』が久しぶりに放送された(全26話を1月22日から26日までの5日間集中)。

 

薔薇海峡|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

二十年ほど前のTBSチャンネル開局当時は、TBSが制作局となった大映テレビ制作のドラマはまんべんなくやっていたものだが、いつの間にか一部の決まりきった作品だけを年柄年中回転寿司状態でリピートする状態になってしまった。それも山口百恵が出演する「赤いシリーズ」ばかりとかで、この『薔薇海峡』のようなマイナーなものはぜんぜんやらなくなり、昔のドラマ好きとしては不満が募っていたところ、昨年これもまた久しぶりにやはりマイナーな『青い絶唱』が放送されたのもあって、ようやく解消の兆しが見え始めている。

 

青い絶唱|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

『薔薇海峡』は1978年12月22日から翌1979年6月15日まで大映テレビの“御席”である金曜9時枠で放送。改編期でもない中途半端な時期に始まって終わっていったことは、以前の当ブログで、その大映テレビの“御席”でやっていた『顔で笑って』について書いた際にも触れたことがある。それは、裏番組が仕掛けるその時かぎりの豪華絢爛な内容による第1話つぶしを逃れるため、あえて春・秋の改編期スタートを外していたのが理由で。『薔薇海峡』もまさにそのセオリーに則った放送期間だったわけなのだが、これが裏目に出てしまう事態に見舞われる。

 

宇津井健と山口百恵、そして水谷豊の「顔で笑って」 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

1978年秋改編期、日本テレビは金曜9時のドラマ枠「金曜劇場」にて、かの水谷豊主演『熱中時代』(教師編・第1シリーズ)の放送を開始したのである。

 

 

じつは『熱中時代』、放送前はあまり注目されない作品で、日本テレビとしても1978年秋改編期のドラマは「開局25年記念番組」と銘打った堺正章主演『西遊記』が一番の“推し”であった。最近刊行された『水谷豊自伝』でもそのことについて記されている。『熱中時代』の直前に水谷豊が大竹しのぶとのW主演扱いで出た、1978年7月末から9月末の秋改編期まで、謂わば穴埋め的な全9話のミニシリーズ『オレの愛妻物語』が、土曜9時というTBS『Gメン’75』最盛期、その裏の日本テレビ「グランド劇場」枠が何をやってもダメだった時期にもかかわらず、20%前後の視聴率を獲るなどして好評を得ていたことで、今度は秋改編期の新番組で2クールの長丁場を用意したら、改編期スタートの新番組を選定する役員会議において、ほとんどの役員たちが「不良のイメージが強い水谷豊に教師の役ができるのるか?」などと訝しんだなか、役員の一人で発言権が強かった井原高忠(当時・第一制作局長)が賛成してくれ、なんとか水谷豊主演『熱中時代』の企画が通ったという。『西遊記』のほか、同じ秋改編期から開始する土曜9時『姿三四郎』、『熱中時代』を開始する同日10月6日と翌週17日の金曜8時『太陽にほえろ!』北海道大雪山ロケ前後編にも「開局25年記念番組」の冠は付けられたものの、『熱中時代』にその冠が付かなかったのはその証左と言えよう。当時の改編期新番組紹介が犇めき合う『週刊TVガイド』でも『西遊記』や打倒!『Gメン’75』を目指した『姿三四郎』はページを割いて推されているのに対して『熱中時代』はまるで刺身のつまみたいにその他の扱いでしか載ってなかった。しかし、放送がいざ開始されると、ダークホースだった『熱中時代』は初回の12.2%からあれよあれよと雪だるま式に20%超の高視聴率を獲り続ける話題沸騰の番組となり、年が明けても視聴率を伸ばし続け、2月からはもはや社会現象の30%台を毎回記録し続けて、3月30日の最終回は40.0%という驚異の視聴率で有終の美を飾った。

 

その裏のTBS『薔薇海峡』だったのである。視聴率は当初から10%前後の不甲斐なさで、先述した『熱中時代』最終回の裏では、わずか8.7%しか獲れなかった。当時におけるヒット番組の基準でもある20%が及第点のTBS金曜9時枠としては如何ともしがたい事態に陥る。当然、話題性のほうも全部持っていかれてしまったのだからたまらない。伏線がバシバシ貼られた第1話の時点ですでに裏番組『熱中時代』は当時の言葉で示せば“フィーバー”していたし、『熱中時代』が終わった後でも盛り返すことは叶わず、静かに終わっていった。なお、後番組は大映テレビによる制作が外れ、独立したばかりの元TBSドラマディレクターが興したテレキャストの制作による『弁護士かあさん』となった。

 

人はそれをスキャンダルという|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

ただ、『薔薇海峡』の失敗による懲罰的な措置ではないとは思う。TBSは1978年11月から大映テレビの制作による山口百恵主演『人はそれをスキャンダルという』を放送している。これは珍しく火曜9時枠で放送されたもので、金曜9時枠『薔薇海峡』に加えて、もうひとつのTBSにおける大映テレビの“御席”である水曜8時枠の『明日の刑事』を含めれば、当時三枠も担当していたことになるから、全21話の2クール弱でやった『人はそれをスキャンダルという』を前借り分と見立てれば、『薔薇海峡』の後番組2クール弱分を空けることにして返したことと思われる。そして、ほぼ半年後の1979年11月末から金曜9時枠に大映テレビの“御席”が復活し、今度こそは絶対に負けられない戦いとばかりに「赤いシリーズ」の金看板を再び掲げて『赤い嵐』、『赤い魂』などの制作を手掛けていく。

 

さて、『薔薇海峡』がマイナーな作品になってしまった歩みはこれくらいにして、内容のほうを見ていこう。主演とクレジットされていても、百恵がいるとどうも脇になってしまった宇津井健だったが、前番組『赤い激突』に続き、これぞ主演!というかんじで全26話を駆け抜ける。平穏な生活を送っていた医学部助教授が、組織暴力が蔓延る地方都市を護っていた市長の義父が病に倒れたことにより、その意思を引き継いで市長となったことで、抵抗勢力である組織暴力側から毎回これでもか!と激しい攻撃を受けるのである。それがまあ酷いのなんの(笑)。陰湿な策略により、愛する妻は謎の家出をしたり、親思いだった娘は不良になっちゃって家族崩壊。また、自身も拉致されて自殺したことにされたり、果ては罠に嵌められて殺人の汚名を着せられたりして、途中からもう市長をやっているどころではなく『逃亡者』のごとく逃げ回りながら組織暴力側の陰謀をなんとか暴いていくのだけど、その助っ人となるのが、地元新聞記者役で出ていた若き神田正輝。

 

大都会-闘いの日々-|ホームドラマチャンネル (homedrama-ch.com)

 

神田正輝コラム 大門軍団と石原プロ/芸能/デイリースポーツ online (daily.co.jp)

 

神田は1976年1月開始の『大都会-闘いの日々-』でデビュー以来、立て続けに日本テレビが制作局となったドラマへ出演。これにはワケがある。御存知の通り、神田は石原裕次郎に見いだされた逸材で、その同時期に氏が出演している『太陽にほえろ!』(制作・東宝テレビ部)の日本テレビ側プロデューサー・岡田晋吉を頼りにして石原プロでも『大都会 闘いの日々』を制作したことから、神田は預けられたかたちで以後も岡田プロデューサーが関わる日本テレビのドラマにおいて純粋培養みたいなかんじで育っていくことになったのだ。デビュー四年目に入ろうかという1978年末、その前の秋改編期からスタートしていた日本テレビ『ゆうひが丘の総理大臣』と掛け持ちをしつつ、ブレイクはまだまだながら名前が知られ始めたことからのオファーを受けて、初の日本テレビ以外となる他局制作作品への出演になった、神田にとってはエポックな作品だったはずである。神田の役回りは、主演・宇津井健を助っ人するほかに、その宇津井の娘役でヒロイン・斉藤とも子とのロマンスも描かれ、このTBS金曜9時枠おなじみの「赤いシリーズ」に例えれば、三浦友和のポジションであった。まさに飛躍を期するドラマだったのだが…、『熱中時代』の裏で話題性もなく低視聴率のまま終わっていったから、『薔薇海峡』のこともそれに出ていた神田のことも誰も覚えちゃいない散々な結果に終わる。神田は大映テレビとこれ一作でしばらく疎遠になるんだけれども、1990年代以降、2サスの時代になると『赤い霊柩車』の相手役、主演作『ラーメン刑事「龍」の殺人推理』のシリーズで常連となっていく。
 

【神田正輝コラム】睡眠時間2時間以下/芸能/デイリースポーツ online (daily.co.jp)

『薔薇海峡』に『ゆうひが丘の総理大臣』、それに追加して『俺たちは天使だ!』の

連続ドラマ三本を掛け持ちしていた当時を振り返っている


【追伸】書き上げた後、記事のタイトルを『宇津井健と大映テレビの七転八倒、「薔薇海峡」』と変えた。最初、記事のタイトルは、軽く書くときに掲げるお決まりの文句を付けて『徒然なるままに、「薔薇海峡」』としたのだけど、悪いクセでまた長くなってしまったから…。久しぶりの放送と言えども正直そんなに期待してはいなかった『薔薇海峡』を、ほぼ初見だったことも手伝って意外なほど面白く観ることが出来たからだろう。X(旧:ツイッター)のほうで“珍しいものやるよ”的に告知はしたものの、当ブログの読者にもそれをしておけば良かったと後悔している。残念ながら『薔薇海峡』がいまのところ放送される予定は記されていない。昨年久しぶりに出てきた『青い絶唱』は半年経ってようやくリピートされるから、『薔薇海峡』のほうもそれくらい待たされるのだろうか。放送予定が出たら今度こそ告知しようと思う。