前回の記事で、『火曜日のあいつ』とともに子供の頃に観ていたものでまた観てみたかったドラマとして『新幹線公安官』のことを出したら、奇遇にもYouTubeで東映が展開している配信チャンネルの一つ、東映シアターオンラインにて第1話と第2話の無料配信が開始された。

 

 

 

1977年の作品で8月からテレビ朝日にて放送。なんでこんな中途半端な時期に?と思われるだろうが、これにはワケがあり、じつは同年4月改編期から同じ東映制作で、同じ西郷輝彦の主演&坂口良子が相手役の現代劇『ジグザグブルース』が放送されていたものの視聴率低迷によって1クールで打ち切られ、当初予定していたもう残り1クール分を主演と相手役はそのまま据え置いて“お色直し”したのがこの『新幹線公安官』となったのである。

 

前番組『ジグザグブルース』は、元刑事による人探し稼業を舞台にしていて、まあいわゆる探偵ものに属するジャンル。だから、危ない橋も渡れば、所かまわず危険な目にも合ったりするし、ときには依頼人や協力者に裏切られて七転八倒するアクションスリラー仕立てとなっていて、本作もまたそれを受け継ぐ展開となっている。警察庁に属する刑事ではなく、民営化前のJRである日本国有鉄道=国鉄の、その公安職員、通称・鉄道公安官の活躍を描くものだが、殺人事件も捜査すれば銃撃戦だってこなす。だから、広義の意味で刑事ドラマと捉えられている。ただ、舞台設定が効いているのだ。当時はブームで刑事ドラマが数多あったんだけれど、鉄道を舞台にしたものはただ一つ、この『新幹線公安官』だけであったから。

 

○ 1977年8月におけるアクション&刑事ドラマ

月曜 フジ『華麗なる刑事』

火曜 テレ朝『新幹線公安官』、日テレ『大都会 PARTII』

水曜 TBS『新・夜明けの刑事』、テレ朝『特捜最前線』

木曜 なし

金曜 日テレ『太陽にほえろ!』

土曜 TBS『Gメン’75』

日曜 なし

※ 火曜にはTBSでアメドラの『刑事コジャック』、土曜にはABCで関西ローカルのみの『部長刑事』、TBSでアメドラの『華麗な探偵ピート&マック』もあり

 

『新幹線公安官』は設定に独自性を出したことでヒットとなり、翌年には第2シリーズ(1978年4月~9月)がフルに2クール分作られて放送されていく。さらに正統な後継作として、翌々年には出演陣を刷新して、守備範囲も新幹線だけだったものから東京駅起点の国鉄におけるすべての路線に広げた『鉄道公安官』(1979年4月~1980年3月)も作られて放送されていく。視聴率低迷で短期間にて終わっていった打ち切りドラマの代替作品がシリーズを重ねていったのは稀なことだと思う。

 

 

東映チャンネルでの初放送時と同じく後発の『鉄道公安官』は先に公開されている

夏目雅子は石立鉄男と同じ所属事務所だったことからセミレギュラーで出演しているが

第7話からなので、この第1話と第2話には出てない

 

さて、『新幹線公安官』の特色はなんといっても“新幹線”であろう。1964年(昭和39年)の東京オリンピック開催に合わせて開業された国鉄の象徴だったそれは、乗り物好きの子供にとっては憧れそのもの。玩具や絵本、子供向け雑誌のグラビアをいつも飾っていたので茶屋町少年にとってもそれがドラマの舞台となっていることから興味津々ではあった。しかし、打ち切りドラマの代替として始まった第1シリーズは前回取り上げた『火曜日のあいつ』と同じくチャンネル権が母や祖母に移譲された火曜8時という時間帯ながら、そっちは家族で観ていたのに、こっちは家族で裏のTBS『すぐやる一家青春記』(1977年7月~10月、制作・木下惠介プロダクション)でも観ていたのかな?、チャンネル権がないばかりに観ることが叶わなくて、その後にやっていた日中の再放送が初見であった。

 

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最近出た第66号には映画『新幹線大爆破』のときに作って『新幹線公安官』でも使われた

その客車内のセットを使った第196話「東京発ひかり第157号のトリック」(1979年3月3日放送)収録

 

もうひとつ特色を挙げるとすれば、主演・西郷輝彦の個人所属事務所、西郷エンタープライズとともに、オープニングのクレジットに企画協力で入っている、SHPなる謎!?の団体。

 

 

はたして、その実態は…

 

SHP=Shouko Hamura Projectの略で、あの創作集団である「葉村彰子」のことである。

 

当時のTBS月曜8時「ナショナル劇場」を手掛けていたことは知られるところ。西郷は1975年放送の『水戸黄門』第6部第一話へゲスト主演したのを経て同年秋から始まった『江戸を斬るII』から『VI』までのシリーズ5作にわたって主演して「葉村彰子」とはつながりを持って行った。「葉村彰子」はキャスティングにも影響を与えており、大坂志郎や中谷一郎など「ナショナル劇場」お馴染みな面々が公安官のメンバーとしてレギュラー出演しているだけでなく、毎回のゲスト陣も結構なまでに「ナショナル劇場」お馴染みな面々の時代劇役者ばかりで、無料配信されている第2話の武内亨なんてそのつながりで起用されたんじゃないかって勘繰る。また、その第2話の橋本功も「ナショナル劇場」の『大岡越前』にゲストで出るときと同じく、目先の金に目がくらんで知らず知らずのうちに大きな悪事に加担してしまう間抜けな役柄とまんま一緒なのだ。

 

先述したように、シリーズ三作目に相当する『鉄道公安官』では設定とともに出演陣も刷新された。『鉄道公安官』の放送は月曜8時であり、「ナショナル劇場」枠(当時は西郷主演の『江戸を斬るIV』)とは裏番組どうしとなったことから西郷はもとよりSHPも外れていったのはそういうワケである。