先週末から東映がYouTubeにおいて、その名も「東映時代劇YouTube」を開設した。有料チャンネルではなく、前回の記事で紹介した『少女コマンドーIZUMI』が観られる「TOEI Xstream theater」と同じく無料視聴出来るというものだ。

 

東映時代劇YouTubeが11/26(金)堂々のラインナップでサービス開始!! | 東映[動画配信] (toei.co.jp)

東映時代劇YouTube - YouTube

 

ご存じ、松平健主演の『吉宗評判記・暴れん坊将軍』など著名作品が観られるほか、レア感たっぷりのものとして『影同心』も入っているのが見どころ。

 

 

『影同心』は未ソフト化であり、年一で書いている当ブログ記事「勝手に選ぶスカパー!昔のドラマアワード」を紐解けば、七年前の2014年から時代劇専門チャンネルにて一時期やったのが近隣では最後で、その前も十何年やっていなかったシロモノ。話はそれるが、最近この「勝手に選ぶスカパー!昔のドラマアワード」の記録が個人・法人の間で役立っているらしく誠に光栄である。

 

勝手に選ぶスカパー!昔のドラマ・アワード 2014 | 茶屋町弥五郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

さて、『影同心』は1975年4月からTBS系で土曜10時に放送されたもので、内容を簡潔に示せば、「必殺シリーズの亜流」である。それには大いなる理由があり、“腸捻転解消”という当時のテレビ界が大きく変わった事情が介在する。1975年3月30日まで、TBSの関西ネット局は朝日放送であり、NET(後のテレビ朝日)の関西ネット局は毎日放送であった。毎日新聞、朝日新聞という親会社を各々持つ東阪の放送局は、行政の指導もあって、その整理・統一のために、1975年3月31日から現在の通り、TBSの関西ネット局が毎日放送、NET(後のテレビ朝日)の関西ネット局は朝日放送に入れ替えをすることになった。これが“腸捻転解消”なる云われである。

 

1975年3月まで、TBSの夜10時台は朝日放送が制作局となった必殺シリーズ5作目『必殺必中仕置屋稼業』(制作・松竹)が好評を博していたのだが、それがNETに移ることになり、TBSはその時間帯の高視聴率を手放したくないため、制作元の東映に“強い依頼”をして必殺シリーズと同様の設定「昼行燈なボンクラたちの裏の顔は、か弱き依頼人の頼みで、悪徳権力者やその甘い汁にすがる強欲な商人やヤクザどもを始末する殺し屋」で作ったのが『影同心』であった。まんま亜流も亜流なのだが、見事当たりを引き出して半年後には続編の『影同心II』まで作られて放送された。しかし、こちらは一転して息切れを起こして結果としてこのシリーズは短くも終了してしまった。後番組は、同じ時代劇ながらも三船プロダクションに制作が替わって、江戸時代にはありえない設定を持ち込んだ、いわゆるニュー時代劇の先駆けとなるエンタメ路線の『隠し目付参上』、それから続く後番組の『江戸特捜指令』となっていく。

 

ちなみに、『影同心II』で視聴率が急落した背景には、日本テレビがその時間帯に『影同心』と同じ1975年4月5日から始めた『テレビ三面記事 ウィークエンダー』の存在がある。前番組が、かの萩原健一主演の伝説的ドラマ『傷だらけの天使』(制作・渡辺企画、東宝企画)、その前は藤岡弘、主演による『白い牙』(制作・大映テレビ)というアクション・ドラマであった。日本テレビは裏番組の必殺シリーズが原因で、もともと視聴率的に低迷していたこの土曜10時枠の起死回生策に“土曜10時の日テレアウトロー路線”と銘打って、当時の邦画史上空前のヒットとなった『日本沈没』公開直後の藤岡弘、を主演にキャスティングして、陰謀と冤罪にハメられて刑事をやめた“刑事くずれ”によるアクション・サスペンス・ドラマを作ることになった。

 

一度だけDVDで全話ソフト化されたことがあるのだが、現在は廃盤

以前はスカパー!でもちょくちょく掛かっていたけれど、ここ十何年はやっていない

幾度となくソフト化もされていて、定期的にスカパー!でも観られるなど

視聴環境が常に整っている『傷だらけの天使』とは大違い

 

当時のテレビで夜10時台はなんでも表現出来た時間帯だけに、勧善懲悪を基調としながらも、エロ、グロ、ピカレスクが入り混じった、かなりフリーな出来栄えとなるものだった。しかし、視聴率は上がらず、せっかくの新路線も半年後には終了して、エロ・グロ・ピカレスクをドラマ番組からワイドショー番組に置き換えた『テレビ三面記事 ウィークエンダー』となることが決定された。その半年間のつなぎ番組として生まれたのが、「だったら、さらに何やってもいいじゃん!」として作った『傷だらけの天使』だったわけである。

 

視聴率を気にせず制作に入ったものの、あまりに酷い視聴率が続いたことでさすがにテコ入れを迫られるなどして青息吐息で放送を終えたのだが、再放送での人気、“相棒”となる水谷豊のブレイク、好事家たちによって伝説のドラマとして語り継がれて80年代には懐かし番組特集の常連となり、また“時代のカリスマ”とんねるずがオープニングや劇中の場面をコント化するなどして、ソフト化される前から誰もが知るドラマとなっていく。

 

ショーケンと優作、そして裕次郎 「太陽にほえろ!」レジェンドの素顔 | 岡田 晋吉 |本 | 通販 | Amazon

『太陽にほえろ!』が放送されていた健全な8時台では、エロ、グロ、ピカレスクなことが出来ないことに

不満を持っていたショーケンが情熱をぶつけたのが『傷だらけの天使』であった

その開始に至るまでの顛末が書かれてある

 

テレビの世界は抜きつ抜かれつつ、さまざまな事情で記憶に残る作品となったり、またはそうならなかったりするのである。