先ごろ劇場公開された『ワンダーウーマン 1984』をさっそく公開初日に観てきた。

 

何かの映画を観に行ったときの予告編だったか、それともネット記事の速報だったか、前作の第一次世界大戦時である1910年代が舞台だったものから今作は1984年が舞台であると知って、80'sヲタクの自分は俄然興味を覚え、そのときから指折り数えて待つこと数年、今年に入ってからのコロナ禍で『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』など大作の洋画が軒並みが公開延期されていくなか、6月に公開予定だった『ワンダーウーマン1984』も度々の公開延期を強いられてその度にがっかりしたんだけれど、なんとかこの年末公開に漕ぎ着けたのはそれだけでも称賛に値する。

 

 

というわけでは、今回は珍しく映画のレビューをお届けしたい。

 

最初に断りを入れておくと、自分はアメコミ映画のファンでもないし、前作『ワンダーウーマン』もスカパー!でやっていたのを“ながら見”して観たぐらいのゴク浅い知識しか持ち合わせてないんで、その点について深くは取り上げない。ただ一点、タイトルにも掲げられ、そして物語の舞台となった1984年の、その1984年感が作品にどれだけあったのかどうかを突き詰めていきたい。

 

1984年という年は、アメリカをはじめとした西側諸国とソビエト連邦(現・ロシア連邦)をはじめとした東側諸国との間に、いわゆる冷戦が続いていた時で、今作は悪役によってその均衡が崩されていき、冷戦とはいっても世間一般の社会では平穏そのものだった状態から一気に第三次世界大戦待ったなし!という極度の軍事的緊張と混乱の状態に追い詰められ、それをワンダーウーマンが救うという話である。

 

で、前述した世間一般の1984年という年は、一言で表すと「消費主義」そのもの。人々のライフスタイルは次から次へと流行りのものを追い求めていたし、当時1ドル=240円もあった円安ドル高のアメリカでは自動車であろうと電化製品であろうと自国のものよりも安くて作りも良い日本製のものが人気で、それに対して高級品はといえばヨーロッパの名だたるブランドという具合に。

 

その「消費主義」のカウンターとなっているのが主人公のワンダーウーマン=ダイアナ・プリンス。齢三十くらいにしか見えないけれど、生まれ故郷であるアマゾン族の島から世界に出た1910年代より七十年経とうとも老化はせずにいて(もちろん、その美貌も保っている)、1984年の現代においては、スミソニアン博物館に研究者として勤めている才媛で、だから暮らし向きは生活に不自由はしていないアッパーミドルそのもの。テレビを観ていないというライフスタイルのおかげで、現代社会に蔓延る「消費主義」には惑わされていないので、有形無形の流行りのものも、ブランドものも気にしておらず、確固とした自分というものを持っている。それが服装にも表れていて、いかにも80'sなパステルカラーやキワモノデザインのものではなく、黒、紺、ベージュあたりを基調としたスタンダードな配色に、現代でも充分通じるトラディショナルなデザインのものを纏っている。とにかく、隙がなく、時代を超越した絶世の美女に描かれている。

 

そんな世俗に塗れていない彼女を取り巻くのが、「消費主義」に浮かれた1984年という図式なのだけど…。

 

これは本編の場面に出てこなかった公開前のティーザー画像で、作品の世界観を表らしたもの

4:3のブラウン管モニター群に映し出された80's映像を虚ろな表情で見つめるダイアナ
80'sヲタクにとっては心くすぐられるもので、かなり期待したのになぁ

 

しかし、目当てにしていた作品の中にある1984年感は過度な期待だったか、あまり感じられなかった。ズバリ1984年というものではなく、具象画的なearly 80's~mid-80'sを大まかに表現した感じであった。舞台となった1984年、もっと細かく示すと1984年7月のアメリカは、その月に自国で開催するロスアンゼルス・オリンピックのことで大いに沸いていたはずである。それから、MTVが隆盛していたときでもあって、老若男女誰もが知るマイケル・ジャクソンやプリンスに影響を受けたファッション・カルチャーもあったはずなのに、そういったものもない。許諾を取るのが大変であるだろうが、ブレイクダンスを公園で練習しているストリート・キッズ以外に、時代のアイコン的なものが出てこなかったのがいただけなかった。音楽面でも、こうした懐古作品のキモである、その時代のヒット曲が劇中にあまり掛かっていなくて(エンドロールのクレジットでDURAN DURANの「RIO」が採用されていたのは読み取れたが)、正直不満であった。

 

1984年夏のアメリカでもっとも流行った曲は映画『ゴーストバスターズ』の同名主題歌

映画のほうも流行ったし、あのマークのTシャツを着るのも流行ったんだけど…

ワーナー・ブラザーズの同業他社 コロンビア映画なもんだから出すに出せない!

 

製作陣は1984年という時代設定を冷戦と「消費主義」の時代であったので、その対極にある、平和と愛を説くワンダーウーマンが際立つのに格好の場だから持ってきただけに過ぎなく、80'sが好きだからとか、その中でもアメリカ中が沸いたヴィンテージな1984年夏に格別想い入れがあるとかではなかったようだ。