来月3月、ホームドラマチャンネルでは春の恒例企画となりつつある「激アツ!レジェンドアイドル」特集で、地上波のフジテレビでいまでも続いている月曜9時からの連続ドラマ枠「月9」で放送された、田原俊彦主演による"びんびんシリーズ"三作品を一挙放送する。トシちゃん演じる熱血教師の徳川龍之介が都心の小学校へやってきて、児童もその父兄にも、それから同僚教師らも巻き込んでその一本気な性格で指導していく第2作の『教師びんびん物語』(1988年4月~6月、全13話)と第3作の『教師びんびん物語II』(1989年4月~6月、全13話)がよく知られているが、今回の特集ではそのルーツである第1作の『ラジオびんびん物語』(1987年8月~9月、全8話)もおよそ十年前にファミリー劇場でやって以来珍しく放送されることからたいへん注目なものとなっている。というわけで、今回は『ラジオびんびん物語』を解説していきたい。

 

ホームドラマチャンネル公式 『ラジオびんびん物語』番組紹介

https://www.homedrama-ch.com/series?action=index&id=24191&category_id=4

 

が、その前にそれが放送された「月9」枠の成り立ちから説明していこう。1980年秋改編期以来、欽ちゃんこと萩本欽一の冠バラエティ番組枠であったフジテレビの月曜9時枠は、1987年春改編期、1985年春に次いで萩本欽一再度の休養宣言によって幕を下ろすことになる。それで1987年4月よりドラマ枠として編成替えすることになるのだが、当時すでに民放ナンバー1となっていたフジテレビにとってドラマはもっとも不得手なジャンルであった。

 

1980年代半ばまで、フジテレビのドラマ制作はどちらかというと視聴者の趣向よりも制作スタッフ本位に進められてきたため、どれもが失敗してきたからだ。そこで新たなドラマ枠として作った「月9」枠は、対象の視聴者層を明確にし、その視聴者層が求めるものを、つまり趣向を取り入れて作っていくことにした。第1弾の『アナウンサーぷっつん物語』は、当初からマスコミ業界ドラマを作ろうとしていたわけではなく、まず対象の視聴者層である若い女性たちが集う職場を舞台の中心にしたものとの企画で持ち上がった。当時、一番テレビを、とくにドラマを観なかった層はF1層と括られる20歳~34歳の若い女性たちであった。フジテレビに限らず、どこのテレビ局もドラマはいつしかこの層の趣向を除外したものばかりを作っていくことになる。他の局がやらないことで1980年代に成功を収めてきたフジテレビ、新規ドラマ枠の「月9」もあえてそこに挑戦していった。

 

それで、やるからには何が何でも結果を出して成功させたいと踏まえて、いままでのような、演出家なら誰もが手掛けたい、大御所の脚本家先生が得意とする作家性が前面に出たシリアスな物語を描くのではなく、ご都合主義で現実離れしたものでもいいからリサーチに基づいたものを作っていくようにした。よって、ありきたりな会社の職場ではなく、若い女性がもっとも憧れる職場を求めたところ…、そうそれがF1層一番のターゲット・女子大生の就職希望先ナンバー1であったテレビ局の、そのなかでもダントツに憧れの職業であったのが女性アナウンサーなことから、テレビ局のアナウンサー室が舞台になったのだった。こうして企画が進められた段階で出てきた、ドラマに先行して当時すでにバラエティ番組で流行していたテレビ局の内幕モノという視聴者の喰い付きが良いジャンルをフジサンケイグループ各社が舞台となるマスコミ業界の内幕まで広げて、『アナウンサーぷっつん物語』以降の後番組でも続けることにして新規ドラマ枠「月9」の売りとした。

 

当ブログ記事 1987年 業界ドラマブームと、その時代

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-10896082651.html

 

キャスティングも抜かりはなく、第1弾『アナウンサーぷっつん物語』の主演は岸本加世子で相手役は神田正輝、第2弾『男が泣かない夜はない』の主演は三田村邦彦で相手役はかとうかず子。当時、二十代前半の女性が読むファッション誌で頻繁に取り上げられる男優・女優たちであった。そして、第3弾『ラジオびんびん物語』の主演が田原俊彦で相手役は池上季実子。

 

1979年のドラマデビュー、翌1980年の歌手デビュー以来、御存じのように男性アイドルのトップであり続けたトシちゃんも1980年代後半に入るとレコードセールスや歌番組のランキングなど数字に表れるものでは翳りが見えてくるようになる。1986年と1987年にトシちゃんが出したシングル曲でタイトルがパッと出るものがあるかな?、ファン以外はおそらく出ないであろう。歌番組を熱心に観る十代の女の子にとっては、当時は少年隊や男闘呼組のメンバーらがアイドルとしての対象であり、トシちゃん・マッチ・よっちゃんら、かつてのたのきんトリオは上過ぎる世代に入っていたからだ。ただ、二十代の女性たちにとっては、十代のときから憧れ続けるトシちゃんの魅力は抜群なものがあり、だから彼女たちがアイドル誌から読み替えたファッション誌でも取り上げられる常連となっていった。二十代前半の女性に向けたドラマ枠にもっとも適したタレントであったに違いない。

 

トシちゃんにとっては、1983年にTBSで放送した竹下景子主演『看護婦日記パートI』(竹下演じる看護婦の実弟役)以来の連ドラ出演であり、本作が連ドラ初主演となった。それ以前の単発主演ものではカッコ付けたと表現してはなんだが、悲劇のヒーローやクールな二枚目を演じてきたのが、本作ではバラエティ番組のコントコーナーで演じてきたような〝顔は二枚目なんだけど性格がモロ三枚目〟、いわゆる二枚目半のキャラ、徳川龍之介が用意された。演じる職業は、フジサンケイグループの躍進とともにラジオ業界をリードするニッポン放送の熱血営業マン!…なんだけど、エリートとは程遠くて、それとは正反対の、一本気な性格が災いして営業成績が一向に上がらない、会社の落ちこぼれ(笑)。しかし、本人は至ってポジティブかつマイペースで、廻りがそれに振り回されていくという破天荒な設定。ここまでならホントにコントのキャラとしかなりかねないところをドラマならではのもう一味加えた設定が効いている。それは配属されてる営業部で空回りしながらも一生懸命頑張ってはいるが、本音は花形部署の番組制作部で仕事をやりたくてしょうがなく、ニッポン放送に就職を志望したキッカケともなった、いまは女性プロデューサーで、かつての人気DJ・池上季実子演じる田島響子と公私ともにお近づきになりたい…という二十代の会社員における等身大の青春も描いているのだ。

 

恋人役ではなくて"憧れの君"を演じる池上季実子はトシちゃんよりも二歳年上で、さらに放送から二年前の1985年に入籍&妊娠出産も経験していたりと、女性人気ナンバー1アイドルであったトシちゃんファンの反感を買わない絶妙なキャスティングと人物設定が施されているのがミソ。なかなか手が届かない"憧れの君"田島響子以外はオンナなんて眼中にありゃしない徳川龍之介にとって、常時傍らにいる相棒となるのが、そう「センパ~イ!」と慕ってくる後輩営業部員の野村宏伸演じる榎本英樹。徳川龍之介の恋愛模様よりも、オトコ二人お互いときに頼りにしたりされたりと、榎本英樹との先輩後輩の掛け合いが印象的であったことから、その後に作られる"びんびんシリーズ"でもそれを軸にしたものとなっていった。また、1980年代後半に同じフジテレビのトシちゃん主演による連続ドラマながらも制作プロが違った『金太十番勝負!』や、当時ジリ貧となっていったTBSが臆面もなくフジテレビのイイトコ獲りしようとしたトシちゃん主演の『俺たちの時代』においても、徳川龍之介と榎本英樹の亜流によって物語が展開されていくようになるなど、『ラジオびんびん物語』こそトシちゃんにとってエポックだったのである(ベルエポックによろしく)。

 

当ブログ記事 "びんびん"ではないが、"びんびん"してる田原俊彦主演ドラマ「金太十番勝負!」

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11088537660.html

 

さて、最後に私事ながら、のハナシ。1987年の本放送当時はニッポン放送の放送対象地域である神奈川県横浜市の片隅に住む中学二年生。二年前となる小学六年生のとき、同級生から「テレビよりラジオで毎晩面白いのをやっているんだよ。『ヤンパラ』(正式番組名…『ヤングパラダイス』)っていうニッポン放送で夜10時から…」と勧められて聴きだし、中学生になって自分の部屋を与えられてからはその後時間帯にやっている深夜放送の『オールナイトニッポン』まで毎晩聴くようになった典型的なラジオ少年であった。テレビは『オレたちひょうきん族』や『夕やけニャンニャン』をやっているフジテレビが一番、ラジオはニッポン放送にチューニング・ダイヤルを固定(受信感度が、TBSラジオはザラザラのノイズ混じり、文化放送なんてガーガーで真面に聴こえないこともあったから)、ついでに当時ファンクラブまで入っていたお気に入りのアイドル・BaBeの所属レコード会社はポニー・キャニオン、まさにフジサンケイグループ一色のフジっ子であった自分にとって、そのフジサンケイグループの業界最前線を舞台にして綴ったフジテレビの新規ドラマ枠「月9」は次から次へと好きなものが目白押しに出てきて、とくにニッポン放送の内幕を描いた『ラジオびんびん物語』はハマりにハマったドラマであったのだ。