tvk(テレビ神奈川)で再放送されている『勝手にしやがれヘイ!ブラザー』もいよいよ佳境。来週21日からの後番組は既報の通り、『あいつがトラブル』が始まる。両作品が1990年3月までの同時期に放送され、さらに『あぶない刑事』をルーツとしてスタッフも重なっていることは前回の記事でも書いた通りだ。当時、他にもテレビ朝日で石原プロが作っていた"『西部警察』の夢よ再び!"の『ゴリラ 警視庁捜査第8班』(1989年4月~1990年4月まで)など、アクション&刑事ドラマにおいて、その質…は兎も角として数量だけは充実していたのだが、テレビドラマの潮流からは外れていた。

 

当時はなんと言ってもトレンディドラマの全盛時代。旬な若手男優と若手女優を揃えて、物語の舞台設定や登場人物たちの職業設定、もちろんそのファッションは言うに及ばず、主題歌を手掛けるアーティストまでも、最新流行のオシャレなネタを詰め込んで、三か月1クールの短いうちに塗り替えて放送していくドラマが闊歩していた。時はちょっと遡って1987年春、日本テレビ『太陽にほえろ!』(&後番組で続編の1クールだけ続いた『太陽にほえろ!PART2』)とテレビ朝日『特捜最前線』のともに長寿刑事ドラマが終了するが、後継番組も刑事ドラマでやるという新聞記事を読んだところ、他局であるTBSとフジテレビは、もはや時代おくれの刑事ドラマは局内の新番組企画会議でも題材に挙がってこないとツレない反応を示していた(1989年までにおいて、TBSは連ドラで何一つとして刑事ドラマを作らなかったし、フジテレビの連ドラでは、警察官が教師に偽装して学園へ潜入捜査しに行くという荒唐無稽かつコメディに振って刑事ドラマのイメージとは相当かけ離れた『ザ・スクールコップ』と、登場人物たちの職業がたんに所轄署の刑事だった『君の瞳をタイホする!』くらいしかなかった。そこに"流行りもの"という理由で南野陽子版『あぶない刑事』withショーケン=マカロニの『あいつがトラブル』を唐突に投入したのである)。

 

その代わり、TBSとフジテレビで急成長していったドラマのジャンルが、そうトレンディドラマだったのである。言ってはなんだが、刑事ドラマなんかに執着していた日本テレビとテレビ朝日はトレンディドラマに乗り遅れてしまい、"のようなもの"を時折作ったとしてもTBSとフジテレビが作るそれには遠く足元にも及ばなかった。

 

テレビの改編期は一年のうちに二度、春と秋にあるが、1980年代後半に三か月1クールが単位のトレンディドラマが生まれるとそれに伴って1月期、4月期、7月期、10月期の四期に細分化されて捉えていくようにもなる。とりわけフジテレビの看板ドラマ枠「月9」では、外注の制作プロには任せない局制作でスタッフも出演者もエース級の人材を投入する1月期の作品を重視していく。1988年1月期はトレンディドラマの始まりとなった『君の瞳をタイホする!』、1989年1月期はトップアイドルの中山美穂が月9枠史上最年少の主演を堂々と飾った『君の瞳に恋してる!』、そしていまからちょうど30年前の1990年1月期はトレンディドラマ常連となっていた浅野温子と三上博史のW主演による『世界で一番君が好き!』。

 

FOD(フジテレビオンデマンド)公式 『世界で一番君が好き!』作品紹介

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4269/

ソフト化されてもなければ、CSでも最近やってくれない。唯一観られる手段はこれ。

 

当時その名前だけで観る価値あるふたりに、布施博、工藤静香、風間トオル、財前直見なんかとこれまたトレンディドラマ常連の面々が脇に並ぶ豪華さ。ストーリーの筋はこう。向井華(浅野温子)は遠距離恋愛中の恋人(益岡徹)へ折角会いに行ったところ、「もう無理だ…」とフラれてしまった。傷心のまま、新幹線で東京に戻る中、隣席の山村公次(三上博史)と小笠原万吉(布施博)のバカ騒ぎに巻き込まれ、公次が飲んでた缶ビールを顔と服に吹きかけられてしまう惨事に見舞われる。御難続きの華と公次、最悪の印象を残した者どうしとなったが、万吉のほうはそんな華に一目惚れして、華を東京駅に迎えに来た友人の車を追っかけたことから、お互いのグループが交流を持つようになり…。

 

最悪の精神状態での、最悪の出会いから、お互いをいつしか意識し合い始め、お互いの友人どうしが自分たちを巻き込んで恋のさや当てを繰り広げていきつつも、なんとか最後はそれを潜り抜けてタイトル通りに『世界で一番君が好き!』となる大団円。まさにトレンディドラマの王道そのもの、といった作品で、フジテレビ全盛期、「月9」枠全盛期、トレンディドラマ全盛期のなか、当然のように大ヒットしていった。

 

一方、TBSの1990年1月期は前期の1989年10月期に復活させた伝統の金曜ドラマ(金曜夜10時)枠で『想い出にかわるまで』。主演は今井美樹と石田純一。フジテレビ『世界で一番君が好き!』の浅野温子&三上博史に引けを取らないカップルだ。しかし、『世界で一番君が好き!』とは物語の展開がじつに対照的。ストーリーの筋はこう。一流商社に勤めるOL・沢村るり子(今井美樹)は同僚で東大卒のエリート社員・高原直也(石田純一)との結婚を控えていて幸せの絶頂にいたが、あるときからマリッジブルーに陥って、些細なことでも齟齬が生じて信頼関係が壊れ始めていく。その心の隙間を埋めるべく、るり子は直也にはない魅力を持った野性的な水中カメラマン・水口浩二(財津和夫)と関わっていくうちに、直也に以前から密かな想いを募らせていた妹の久美子(松下由樹)に略奪愛され、とうとう結婚までされてしまう。

 

TBSチャンネル公式 『想い出にかわるまで』番組紹介

https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0508/

DVDソフトは出ているが、肝心な主題歌は権利関係で差し替えられている。

また、1990年前後の局制作によるトレンディドラマ作品はTBSが出資しているオンデマンド・サービスの「Pravi」で観られるのだが、なぜかこの作品はラインナップにない。

 

視聴率を持ち出すと、『想い出にかわるまで』は初回が13.4%で、以降も同様な数字が続き、全12話のうちで当時のヒット番組の指標となる20%を越えた回は一回(第9話、21.4%)しかない。同じ全12話中たった一度だけ10%台(それでも19%台)に落ちただけであとは20%台だった『世界で一番君が好き!』と比べれば勢いがなかったように感じられるが、当時高校一年生だった自分の感覚は正反対であった。同じ週に始まったこの二つのドラマ、朴念仁の自分は当初、『世界で一番君が好き!』のほうだけを観ていた。しかし、恋愛ドラマの嗅覚は女性には敵わない。学校のクラスで女子生徒たちが話題に出すのは『想い出にかわるまで』のドロドロな展開ばかりで、「そんなに面白いの?」と思って、とうとうそちらも観てみたら、たしかに面白かった!

 

どれもこれも恋愛関係が多少こじれるだけで、バラ色の生活ばかりを平坦に描いていくという、粗製乱造されていたトレンディドラマの世界において、『想い出にかわるまで』は異色な存在であったからだ。女子大生を中心に若い女性にも当時やたらとウケていた昼ドラのメソッドや、かつてのドル箱番組・大映テレビが作っていたドラマのような大仰しい展開で「次回になにが起こるんだろう!?」と繋いでいくあたりが話題として持ち上がっていったのだろう。そして、いまでも強烈な印象を残していて、『世界で一番君が好き!』が「そういえばそんなのあったけかなぁ、月9でしょ…、主演は浅野温子?、浅野ゆう子?、それともキョンキョン?」と埋没しているの対して、『想い出にかわるまで』は「さすがは"ドラマのTBS"の作品。今井美樹から石田純一を可愛い顔して奪う妹役の松下由樹が憎たらしいんだ」と誉れ高き名作として、出演俳優もそのストーリー展開も万人に覚えられている。

 

TBSにおける1990年1月期スタートの連ドラは他にも充実していて、『想い出にかわるまで』と同日スタートで、前時間帯の金曜夜9時からやっていた中山美穂主演の『卒業』もヒット。前年のフジテレビ「月9」枠でその中山美穂が主演した『君の瞳に恋してる!』が女子大生の憧れだけで占めていた世界観ならば、こっちは同じ女子大生(短大生)が設定ながらも二十歳という人生最大のモテ期における憧れと就職活動が上手く行かない現実をミックスさせている。その現実のほうも山田太一脚本の『ふぞろいの林檎たち』みたいに辛辣なものではなく、バブル景気華やかりしの頃だから、逃げ道として頼ったのは織田裕二演じるリゾート会社のイケメン若社長だったり、海外留学したりとかなりの極楽なのである。

 

TBSチャンネル公式 『卒業』番組紹介

https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0483/

 

それから、シリーズが何作も続く石ノ森章太郎原作の『HOTEL』第1シリーズがスタート。制作プロは、かつて『Gメン'75』を東映で手掛けていた近藤照男率いる近藤照男プロダクション。東映からの独立後、『Gメン'82』、『スーパーポリス』が不発に終わり、さらにTBSが刑事ドラマを手掛けない方針だったなか、2時間サスペンスで糊口をしのいで、ようやく掴んだヒット作となった。TBSチャンネルの占有ではあったけど、来月2月には日本映画専門チャンネルで放送する。

 

日本映画専門チャンネル公式 『HOTEL』番組紹介

https://www.nihon-eiga.com/program/detail/nh10008865_0001.html