TBSチャンネルでは来月10月に、1989年9月に放送された後藤久美子主演の長編ドラマ『空と海をこえて』を蔵出し(未ソフト化&CS初)で放送。


TBSチャンネル公式 『空と海をこえて』紹介

http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d2469/


1989年、パソコンが一般家庭に普及し出す前、ホビー分野ではまだ一部の愛好者が嗜むもので、インターネットではなくパソコン通信の時代だった、そのパソコン通信を題材にしたドラマである。


それ故に、インターネットの検索で〝空と海をこえて〟を掛けると結構な数の記事が出てくる。連続ドラマや単発ドラマでもシリーズものなんかに比べて、原作もない、ただそれ一本きりのドラマの項目なんてほとんどないウィキペディアにもちゃんと有ったりする(まあ、ヘタな文章で読むに耐えないが・・・)。わずか一回だけの放送で、ソフト化もされていないのだが、やはりパソコン通信が題材なだけに、インターネットの時代になってもこのドラマはインパクトがあったものだと伺わせるというもの。


ウィキペディアに載っていないことをモットーとする当ブログなので、ここからはお得意の放送当時におけるハナシ。


このドラマ、日立による一社提供の作品だったことから、後藤久美子が主演に抜擢。その理由は当時彼女は日立のPC製品やファックスなんかのCM&イメージキャラクターでもあったからだ。番組中に流れるCMのほとんどは彼女のそれで、このドラマのなかで流すためだけに作ったと言われる3分に及ぶドラマ仕立ての長編CM「Sixteen's feeling」も入っていたりする。


YouTube動画 後藤久美子 日立CM「Sixteen's feeling」

https://www.youtube.com/watch?v=IcE0gEelfUo

ブラウスや紐タイなど細部は違うが、『空と海をこえて』の劇中で着ている制服と同じものを着用。


後藤久美子は同じTBSにおいて、同年4月から6月までやっていた主演(級)ドラマ『アイライブユーからはじめよう』終了後程なくしての出演。どちらも実年齢と同じ高校一年生を演じている。『アイラブユーからはじめよう』では、二十歳以上も年齢が離れた大人の男性(岩城滉一)と寝てしまったことで禁断の恋に堕ちるといったエキセントリックな設定。しかもその男性は、奔放な母親(浅丘ルリ子)の元恋人で、二人の間が再燃してしまったことから、いびつな三角関係にも深く悩んでしまう役どころを演じていた。しかし、『空と海をこえて』では、それとは一転して、ごく普通の家庭で父母の愛情に包まれて育てられた明朗快活な少女を演じている。天体観測が趣味で、その趣味の補助としてパソコン通信を嗜んでいる設定であった。


当ブログ記事 1989年4月、後藤久美子主演「アイラブユーからはじめよう」と、その時代

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11462513211.html


主演は後藤久美子ではあったのだが、主要出演者のなかで唯一人のパソコン音痴、加藤茶が演じる中学校の国語教師が狂言廻しとなっている。その加藤からの視線で、パソコン通信の魅力であるリアルタイムで情報がやりとり出来る便利さとともに、匿名でなごやかにやりとりしていたはずのところへ不意にプライバシーに踏み込んでしまったりと、いまのSNSトラブルの事例そのものも提起するなど、現在にも通じるテーマがあったりして先見性がある作りともなっている。


一方で、時代設定は放送された1989年当時の現代だったから、もう携帯電話はあったものの、まだまだ一般には出回ってなかった頃でもあった。なので、パソコン通信でやりとりしつつ、公衆電話を探し求めたり、直接相手方に来訪してのやりとりなんかも随所にあって、いまの眼から見ればそのギャップが、じつに不思議な作りのドラマだとも感じさせる。


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『空と海をこえて』の脚本を担当した佐々木守は翌1990年公開の映画『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』も手掛けている。
双方ともに荻野目慶子が放送局で働く下っ端の現場スタッフという役どころで出演。

放送されたのは1989年9月16日の土曜日夜9時から11時48分までのおよそ3時間。通常枠では、9時からは現在でも続いている日立一社提供の『日立 世界・ふしぎ発見!』、10時からは単発の2時間ドラマ枠「土曜ドラマスペシャル」が当時あって、編成自体はそれを繋げたものであった。日立は1970年代後半からTBSにおいて長編大作ドラマを一社提供でスポンサードしていて、『海と空をこえて』もその一環であった。


それで先述の通り、日立一社提供の作品だけに、劇中におけるパソコンは誰のでもすべて日立製だったのだけど、当時はNECのPC-9800シリーズが全盛。そこに風穴を開けたかったのか!?、業務用の分野にしか広がっていなかった日立によるイメージ戦略のためのドラマであった。また、エンディングクレジット後のCMは、日立製作所のユーティリティや社員生活の充実ぶりを紹介したイメージCMも放送している。これはバブルの好景気による空前の売り手市場と言われた就職活動学生に向けてのもの。当時、川崎製鉄や住友金属など一般家庭用向け製品とは無縁の企業もこぞって同様なイメージCM作ったりするなど、まさに時代を感じさせるものだった。