俳優の林隆三が亡くなった。



今月おかげさまで41歳になった自分にとって、林隆三のファーストインパクトは1985年の小学6年生の時に観たNHK「銀河テレビ小説」枠(月~金、夜9時40分から10時)の連続ドラマ『たけしくん、ハイ!』で主人公・たけしの父親・竹次郎だった。


じつは、4月に書いたブログ記事「1985年春のテレビ番組選び」 の延長で、1985年のNHK銀河テレビ小説全般のことについて絞って書こうと思っていたところだった。もちろんメインは、銀河テレビ小説最大の話題作であった『たけしくん、ハイ!』。このドラマは、ビートたけしの幼少期を綴ったエッセイが原作となっていて、その後に数多出てくるビートたけしの半生を映像化した作品の先駆けでもある。

たけしくんハイ ! DVD-BOX 完全版/ハピネット・ピクチャーズ
¥15,228
Amazon.co.jp

大酒飲みで粗野、“学”はなくて世間知らず。漫才ブームの時からそれまで自ら面白可笑しくネタにしていたビートたけしの父親像を林隆三はそのまま体現していたのだが、たけしやモデルとなった実家の北野家はあまりの具象画ぶりに困惑していたとか(笑)。


そして、林隆三のセカンドインパクトは『たけしくん、ハイ!』終了直後であった1985年の秋、ヤマハが新しく作って大々的に売り出した電子ピアノ、クラビノーバのイメージキャラクター。ピアノが趣味で流麗に鍵盤を弾けたことから採用に至った。かたや粗野で無教養な男、かたや繊細にピアノを奏でる男、とギャップがスゴかった。まさしくこれぞ役者である。


1987年1月からフジテレビで放送した斉藤由貴主演ドラマ『あまえないでョ!』では、相手役となった布川敏和の父親役で、彼らの家に入ってきた居候の斉藤由貴を父子で取り合うという設定のラブコメものなのだが、このドラマの醍醐味はなんと言っても「あばれはっちゃく」シリーズを超す家庭内プロレス。林隆三が演じた独善的な一家の長に反発する布川敏和ら男ばかりの四兄弟の息子たちとのハチャメチャな親子ケンカは毎回抱腹絶倒モノで、いまでも強く印象に残っている。


当ブログ記事 ふっくん、四度も浪人生役をやる

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-10895114026.html


ニッカンスポーツ ふっくん、林隆三さんを偲ぶ

http://www.nikkansports.com/entertainment/news/f-et-tp0-20140610-1315438.html


1990年代に入り、新作のテレビドラマよりも昔のテレビドラマを嗜むようになると、林隆三の名は特別なものとなった。たとえば、大好きな「ハングマン」シリーズの、その第一作である『ザ・ハングマン 燃える事件簿』の主役だったこと。「ハングマン」シリーズといえば、やはりミスターハングマンこと名高達郎であったり、インパクト絶大なチリチリ頭の黒沢年男であったりするのが〝いの一番〟に思い浮かぶと思う。昔のドラマを振り返るようになる前の自分もそうだった。しかし、林隆三が最初の主役であったこと、主役のキャラがハードボイルドそのもので、作品全体も暗く沈鬱な展開が多かったことなど、その後の「ハングマン」シリーズとは掛け離れたものに「どうして?」と疑問が沸き、探究していくことになっていく。


当ブログ記事 ザ・ハングマンのあのエロさはどこから来ている!?

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11570461624.html


昨年、ファミリー劇場で1974年の本放送以来39年ぶりに放送した『華麗なる一族』テレビドラマ版では、林隆三は万俵家の次男・銀平を演じている。映像化された三つの『華麗なる一族』のうち、同時期の映画版、そしてキムタクが主演した2007年のテレビドラマ版においては、父・万俵大介と長男・万俵鉄平の確執が物語の軸となっていて、次男・銀平の存在は、せいぜい鉄平の対比とでしか表現されなかった。しかし、211分にまとめた映画版、近年のテレビドラマにおける平均的話数だった全10回の2007年のテレビドラマ版と比べて、1974年版のテレビドラマ版では全26回という長丁場の利点を効かして、長大な原作をあますことなく表現することが出来て、銀平の存在も大いにクローズアップされている。それで驚くことに中心人物であるはずの加山雄三演じる鉄平がまったく出ない回もいくつかあり、そういった回では、父・大介と息子・銀平の物語となっているのである。なので、1974年のテレビドラマ版だけにある魅力を挙げるとすれば、林隆三が演じたこの銀平の存在であろう。


当ブログ記事 1974年10月、連続テレビドラマ「華麗なる一族」と、その時代

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11424727352.html


話はずれるが、今週TBSチャンネル2でCS初として放送されている三浦友和主演『突然の明日』(1980年1月~4月)は、『華麗なる一族』の1974年版のテレビドラマ版と同時期の映画版も担当した山田信夫による脚本。原作があるとはいえ、都市銀行の上層部が舞台であり、ドロドロとした閨閥や複雑な経緯を持つ父子の物語に『華麗なる一族』との類似点を見ることが出来た。『華麗なる一族』が好きな人はハマるかと思う。来月にはさっそくリピート放送があるので是非ともオススメしておきたい。


TBSチャンネル公式 「突然の明日」番組紹介

http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d2345/


さて、『華麗なる一族』の林隆三のことに話を戻そう。1974年版のテレビドラマ版で銀平の父親・万俵大介を演じるのは山村總。前述した林隆三が主演した『ザ・ハングマン 燃える事件簿』では、ハングマンたちの上に立って、指令を与え、組織を統率するゴッドという役を演じている。つまり、林隆三と山村總は再共演だったわけである。そして、その関係もどこか似ている。ハングマンたちへ莫大な額の報酬を与える代わりに、命令と規律で服従させる絶対的存在でありながら、コードネームのゴッドのごとく“神”というよりは、“父親”的な存在なのである。とくに主演の林隆三演じるハングマンのリーダー・ブラックとはそれが強い。


交通事故で植物人間状態となった実妹のために莫大な額の治療費を稼がなくてはいけないブラックは、その莫大な額を報酬として得られるハングマンになるも、最後までその存在に馴染めずにいた。そして、ハングマンの条件である以前の人生を断ち切って“生きている死人”=別人として生きることも割り切れず、たびたびゴッドから戒められる。もちろんゴッドもブラックの事情が判っているだけに、どこか情というか、哀しさみたいなものを滲ませる。以前の人生のために、別人のハングマンとして生きなければならない二律背反から来るハードボイルドさがこのハングマンシリーズ第一作の、林隆三が主演していた前期のキモなのである。山村總演じるゴッドとのある種ウエットな関係も、哀愁漂う林隆三ならではだった。