今月4日、竹内まりやが他の歌手に提供した曲を集めたコンピレーション・アルバム『Mariya's Songbook』が発売された。

 

その竹内まりやの提供曲の一つに、自分がデビュー当時からファンの女性アイドル・福永恵規へ1987年に作詞・作曲で提供したシングル曲「夏のイントロ」という曲がある。発売告知段階で有名どころの岡田有希子への一連の作品や広末涼子のデビュー曲「MajiでKoiする5秒前」などは早々に収録されていることが喧伝されていたものの、楽曲や歌手がともにちょっとマイナーなこれが『Mariya's Songbook』に果たして収録されるか否か気になっていたんだが・・・

 

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福永恵規は1985年4月から始まったフジテレビ『夕やけニャンニャン』番組立ち上げ時からのおニャン子クラブのメンバーで、1985年7月に発売されたデビュー曲「セーラー服を脱がさないで」のフロントボーカル四人の一人でもある。1986年5月にソロデビューし、前後してフジテレビ「月曜ドラマランド」枠の作品で主演もするなど華々しいソロ活動を展開。全盛期の1986年9月に『夕やけニャンニャン』とともにおニャン子クラブも卒業し、これを機に一本立ちしたソロ活動へと転向していくのだが、やはりおニャン子クラブ在籍時代ほど活躍は出来なくなっていく。1987年4月発売の「夏のイントロ」は4枚目のシングルで、それが自身最後のものともなった。
 

当ブログ記事 「月曜ドラマランド」 その4 おニャン子クラブとの心中、その終焉

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11199915381.html

 

その「夏のイントロ」は所属していた同じレコード会社のポニーキャニオンが1987年に手掛けたOVAのアニメ・ビデオ『プロジェクトA子2 大徳寺財閥の陰謀』の主題歌に採用。ま、いわゆるタイアップ曲で、当時は「心もJUMPして!夏のイントロ」と副題も付けられていたけど、今回のコンピ盤ではたんに「夏のイントロ」となっている。

アイドルの歌唱曲のレコーディングというものは、たいていはそのアイドルが歌入れを行う頃にはすっかりオケのほうが仕上がっている。それで歌唱するアイドルは歌入れする際に、レコーディングが仕上がったトラックにそのアイドルが歌いやすいような仮歌が吹き込まれたトラックをガイドとして歌入れが行われるのである。その仮歌を吹き込む専門のスタジオミュージシャンの歌手というのがいて、「おどるポンポコリン」で有名なB.B.クイーンズの女性ボーカリスト、坪倉唯子は自身の名前が出る活動と併行して行っていた。

 

また、もうひとつのガイドとして、レコーディング前に作成されたデモンストレーション・トラック(以下、デモと略)だったりするものもあり、竹内まりやの場合は、作詞・作曲の双方賄うものには、自身でデモ・トラックを作って、もちろん自身で仮歌まで入れてくる。それに主婦業と作家活動を両立させているので自宅で作製のデモに入れる楽器演奏は、一緒に住む夫である山下達郎が手伝ってくれているのだというから、なんと豪華なことか。

 

福永恵規ファンならば、竹内まりやが「夏のイントロ」の歌入れに立ち会ったことは知られている話で、竹内まりやが歌ったデモ音源の存在も当時からなんとなしに知られていた。今回、初回盤限定のボーナストラックながらそれが26年の時を経て日の目を見た。

 

山下達郎がDJをしているFM番組『サンデーソングブック』のなかで、ときおり“お宝音源”と称して、山下達郎や先述の理由で共同作業で手掛けることになる竹内まりやが他アーティストに提供した曲のそのデモ音源が流れることがある。おニャン子クラブ出身とはいえ、ソロではさすがに当時マイナーな存在に落ちつつあった福永恵規のこの「夏のイントロ」は流れたことはなかった。


茶屋まち五郎の趣味シュミtapestry
アイドル雑誌『ザ・シュガー』1987年6月号が最後に表紙を飾った雑誌となった

インタビューでは芸能界に執着しないようなことが書かれていて、この後の引退を暗示させている。

 

 

『Mariya's Songbook』に収録されるのが福永恵規の「夏のイントロ」だけならば、彼女のベスト盤にも当然収録されていることから「まあ、別に買うほどのものでもないか」とパスしようとしていたのだが・・・、未公開だった「夏のイントロ」のデモが収録されると知るや、amazonのワンクリックボタンを躊躇なく押すに至った(笑)。

 

自分にとって福永恵規の「夏のイントロ」の世界観は、当時流行していたわたせせいぞうの『ハートカクテル』。50'sのアメリカのような日本で行っている物語。実際、1980年代当時はオールディーズが流行していたし、古き良きアメリカンポップスの調子がある「夏のイントロ」はそれを当時もうすぐ14歳になろう自分に届けてくれたかと振り返る。

 

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さて、『Mariya's Songbook』発売にあたって、竹内まりやとクリス松村の対談記事があり、それを読むにデモと本チャンとは近いものがあるかと思いきや実際聴いてみたら結構違っていた。自分としてはやはり福永恵規のバージョンのほうが好み。ただ、竹内まりやのデモを否定するつもりはない。
 

ナタリー 竹内まりや クリス松村と紐解く『Mariya's Songbook』

http://natalie.mu/music/pp/takeuchimariya02/page/5

 

というのは、上手いか下手かは置いといて、福永恵規の歌い方が竹内まりやそっくりに合わせてないのが逆に好かった。この曲を聴く人は、当時の竹内まりやのファン層である二十歳代の女性ではなく、タイアップとなったアニメビデオやおニャン子クラブ時代からの福永恵規のファン層であるティーンエイジャーが聴くというものなのだから。

 

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「夏のイントロ」直後の1987年7月発売の竹内まりやのアルバム
河合奈保子や薬師丸ひろ子らに提供した5曲のセルフカバーを含んでいた
前作『VARIETY』につづき、購買層は女子大生から上の世代が中心
 
 
おそらく制作現場もそういう考えだったのだろう。アイドル歌謡専門のティーンエイジャーが音楽シーンの流行やそれに付随するおしゃれを気軽に手に取れるかんじに、竹内まりやのエッセンスというかそういうものをほどよく汲んだ範囲で抑えられている。それにアレンジャーの新川博は、その前後も竹内まりやのアイドル提供曲に関わっていたりして竹内まりやとのフィッティングが好かったのかもしれない。