先月4月30日に東京渋谷のオーチャードホールにて開催された、舘ひろしのコンサートツアー「HIROSHI TACHI IN TH MOOD 2013」を観に行ってきたので、今回の記事はそのレポートを。


一言で言えば、〝至福の時間〟だった。


東名阪3都市4カ所で開催された今回のコンサートツアーは昨年制作して発売された石原裕次郎のトリビュートアルバム『HIROSHI TACHI sings YUJIRO』をきっかけに、そのアルバムからの選曲でレコーディングメンバーを引き連れて幾つかのテレビの音楽番組出演を経て実現されたもの。


HIROSHI TACHI sings YUJIRO/DefSTAR RECORDS

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舘にとっては久々の音楽活動であり、コンサート活動となると、『西部警察』シリーズ出演時に発表した「泣かないで」が流行った、いまから29年前の1984年に行われた武道館公演以来となる。当時自分は11歳で、まだ小学生だった頃。舘ひろしが歌う姿はテレビで観るだけでしか適えられなかったから、このいまの世に再び舘ひろしがライブで歌う姿を、それをコンサートというスタイルで観られるなんて想いもしなかった。しかも、自分が愛してやまないフュージョンの、そのなかでも特に信奉するメンバーらが参加した、先述の『HIROSHI TACHI sings YUJIRO』のレコーディングメンバーでなんて夢のようだ(このメンバーのすごさは、下記の以前書いたブログ記事の示してあるからそちらを参照)。


舘ひろし NHK『SONGS』出演&豪華メンバーでの演奏

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11364594050.html


今回のツアーのドラムは、アルバム『HIROSHI TACHI sings YUJIRO』、NHK『SONGS』、『紅白歌合戦』に参加した神保彰ではなく則竹裕之に変更。しかし、実力も人気も神保とはひけを取らない。プロフィールを紹介すると、元T-SQUAREのメンバーであり、あのF1テーマ曲「TRUTH」のレコーディングメンバーでもあった。また、神保の世界で一番のフォロワーと言っても過言ではなく、いやフォロワー以上で、神保とはSynchronized DNAというドラム・デュオを結成して活動していた時期もあったほど互いの存在を認め合う仲。T-SQUARE在籍中から現在に至るまで様々なセッションに呼ばれていて、だからミュージシャン間でも人気が高くて、今回の舘ひろしのバックバンドのバンマス(バンド・マスター)を勤めるギターの増崎孝司やベースの櫻井哲夫らとも以前から幾度となくセッションを重ねている。無論、自分も好きなミュージシャンの一人である。


さて、相変わらず長い前置きはこのくらいにして、コンサートの模様を綴っていこう。


開演時間の7時より10分ほど押して始まったコンサート。古い清き時代の高級キャバレーのような演奏フロアが再現されたステージに、総勢15名のビッグバンドスタイルのバックバンドを従えて、29年前のツアーと同じ「DANCE AWAY」でスタート。挨拶がてらの短いMCを挟んで、続く2曲目は『あぶない刑事』のエンディング・テーマの「冷たい太陽」。さすがにこれには〝もうここで持ち出すか!?〟と会場のそこかしこからどよめきが沸いていた。3曲目はこちらも同じく『あぶない刑事』関連の曲で、三作目の映画『もっともあぶない刑事』の主題歌「夜を抱きしめて」。


4曲目からは『HIROSHI TACHI sings YUJIRO』より石原裕次郎のカバー曲を幾つか。自分のオリジナル曲とくらべて、やはり遠慮があるのか、どこか戸惑いながら歌っているようにも見受けられた。恩師でもある渡哲也のその先の偉大な存在、石原裕次郎を気にするというよりも、石原裕次郎の曲を聴きに来た観客をだいぶ気にしていたようだ。


この日の観客は年齢層が幅広かった。自分のような子供時代に『西部警察』や『あぶない刑事』に感化された人もいれば、映画がテレビに取って代わるまで娯楽の王様だった頃の石原裕次郎の映画や歌唱曲をリアルタイムで体験してきたご年配の方々も。それだけじゃなく、現役で俳優活動をやっているだけに、ものすごい若い世代まで観に来ていて、文字通り老若男女入り乱れたかんじだった。


でも、すべての客席は暖かく舘が歌う裕次郎のカバーを迎える。裕次郎は、裕次郎だし、舘は、舘だ。みんなそれをわかっている。これに応えて舘も「嵐を呼ぶ男」で調子が掛かってくる。中盤の台詞は、『SONGS』で披露した舘自身が言い放つものではなく、『紅白歌合戦』で演じられた映画『嵐を呼ぶ男』から抜き出した裕次郎が言い放つものとの共演バージョン。このコンサート最大の目玉曲をバッチリと決められて観客は拍手喝采。山場を乗り越えられたか、それまで緊張気味だった舘の表情に余裕が生まれた。


ようやく落ち着きを見せたところで、今度は熱心なファンだというエルビス・プレスリーのカバー・コーナー。著名な「好きにならずにいられない」と「LOVE ME TENDER」の二つのバラード曲をストゥールに腰掛けながらじっくりと歌う。普段から歌い慣れているのか、さきほどまでの裕次郎のカバーよりも自分のものにしている堂々な歌いっぷりであった。そしてデビューのきっかけとなったクールス時代の想い出の曲「恋のテディ・ボーイ」。ストレートであり続ける舘の音楽のルーツを垣間見られた。


コンサート中盤、バックバンドのメンバー一人一人を丁寧に紹介。バンマスを務めるマスヤンこと増崎孝司には最大の賛辞を送って労う。我らが櫻井哲夫には「知る人ぞ知る!」と紹介。則竹裕之にも「知る人ぞ知る」と紹介した後、「知らない人は知らない!」とオチ(笑)。そして、舘は衣装替えのため、ステージから下がって、舘が自嘲して名付けた〝金にモノ言わせたバックバンド〟によるインスト曲。各ミュージシャンの巧みなソロを織り交ぜた「我が人生に悔いはなし」で、それに合わせてステージ中央のモニタースクリーンには舘の誕生時から学生時代のプライベート写真、クールス時代のワルそうな雰囲気を漂わせた宣材写真、『西部警察』や『あぶない刑事』での格好良くポーズを構えた劇中の場面などが映し出された。


インスト曲のエンディングとクロスフェードするように黒から白のディナージャケットに衣装チェンジして舘がステージに再登場。二曲自身のオリジナルに続けた後のMCで、代表作であり、自身の運命を決めた『西部警察』出演の経緯の昔話を話し始めた。そのネタ自体はコアなファンならば誰もが知るものだが、テレビのトーク番組で起伏に富んだ口調で話すそういうのとは違い、知人に語りかけるかのようにとうとうと話しかける姿が印象に残った。それに因んで再び『HIROSHI TACHI sings YUJIRO』から『西部警察』のエンディング・テーマ曲「みんな誰かを愛してる」を披露。このアルバムに収録されている曲は自分の親の世代の曲ばかりで、そういった曲らは正直思い入れといった部分はないのだが、この曲だけは『西部警察』を毎週日曜日最大の楽しみとして観ていた自分の心にもしんみりと響いた。


クライマックスに向けて、最大のヒット曲「泣かないで」、1988年の『あぶない刑事』映画版第二作『またまたあぶない刑事』と、その直後に放送開始された連ドラ版の続編『もっとあぶない刑事』のエンディングテーマの「翼を広げて ~open your heart~」で客席を盛り上げる。『あぶない刑事』といえば、やはり最初の連ドラ版に起用された「冷たい太陽」がそのイメージとして共有されるが、「翼を広げて ~open your heart~」は当時〝あぶ刑事〟がムーブメントとして最高潮に達したときの曲であるから、リアルタイムで観ていた人らはこっちのほうが思い入れ深いんじゃないかと思う。そんな自分も、『あぶない刑事』が好きだった片思いの娘や、気合い入れた保存版ビデオなのに頓珍漢にも3倍速で録画していたことなど、〝あぶ刑事〟にまつわるいろんなことが聴いててこみ上げた。本編最後の曲はクールダウンするように「SWEET DREAMS」で締める。


あぶない刑事 TAKA THE BEST/DefSTAR RECORDS

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アンコールは、これもまた舘ひろしの代表曲である「朝まで踊ろう」。客席を総立ちにさせて、華やかなショーを締めくくろうとするが、すぐさま起こった熱烈なダブルアンコールに応えて、曲の世界とは正反対な、歓喜!な「泣かないで」を演奏して締めくくった。


なお、この日の模様は5月6日にWOWOWで放送されるので視聴環境がある方はどうぞ

http://www.wowow.co.jp/pg_info/detail/103119/index.php?m=01