ギタリスト・是方博邦の通算9枚目のソロアルバム『LIVE OF LIFE』が今月6日に発売された。年間100本以上のライブをこなす是方、その様々なライブで一緒にセッションするメンバーを中心にレコーディングには22名ものミュージシャンが参加となった。いまの是方博邦の活動の全てが収められていると言っても相応しいのではないのかな。
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なので、野獣王国による「Good Times Good Things」、安藤まさひろと野呂一生を招いたオットットリオの面子による「フレ フレ シャッフレ!」(是方のオリジナルだけど、フザけた曲名の名付け親はなんと野呂一生!)などのインスト曲だけではなく、杉山清貴らゲストミュージシャンによるボーカル曲もアルバムの半分の6曲も収められたバラエティ溢れる内容となっている。しかし、こういった幕の内弁当的なコンセプトのアルバムにありがちな散漫な印象となっていないのが、どの曲も是方博邦のギターが活きているからだ。それに是方のギターはよく“歌っている”と表現されるその通り、ボーカル曲はツインボーカルのような味わいで聞こえてくる。
さて、最新のアルバム『LIVE OF LIFE』とともにいまからちょうど30年前の1983年にビクターからリリースされた1st.アルバムの『KOBE KOREKATA』と2nd.アルバムの『MELODY CITY』も同時発売されている。この二枚のアルバムはファン念願の初CD化である。
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- 衣装協力はレノマ、前々年の角松敏生の1st.アルバムのジャケット写真でもレノマが衣装協力している
シングルカットされなかったが、アルバム・プロモーション用の7インチのサンプル盤が存在する
というわけで、ここで是方博邦の1983年を振り返ってみたい。当時の是方博邦は「新進気鋭!」といったかんじに、ブームが落ち着いた後の洗練化されていくフュージョン・シーンの中で、それとは逆にロック・テイストを全面に押し出したスタイルが新鮮であった。
このビクターでの二枚のソロアルバムを出す前年の1982年9月、ラテン・フュージョンの父たる松岡直也がその活動の中心であったビッグバンド編成のウィシングを休止させて、少人数編成のコンボ(いわゆる松岡直也グループ)を組む際、「活きの良い若い奴を!」と現在も松岡の右腕の存在たる高橋ゲタ夫に一任されたと言われている。それで集められたのがまだフュージョン・シーンではあまり名の知られていない存在のミュージシャンたちで、是方もその一人であった。
是方が参加した松岡直也のアルバム『午後の水平線』(1983年4月発売)はロック&ポップテイスト溢れる傑作アルバムで、オリコンのアルバムチャートでもそれまでのアルバム最高位だった28位を記録した上に、14週にわたって100位圏内に入るロングセラーぶりで大ヒットした。
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松岡直也グループに参加する前年1981年から是方はソロ活動を開始している。その第一歩は松岡直也グループに一緒に参加する多田牧男(ds)らとパーマネントバンドを組み、都内のライブハウスでの活動。それらが実って、1983年2月、28歳になる直前にようやく初めてのソロアルバム『KOBE KOREKATA』をビクターからリリースした。そのビクターの社内プロデューサーがサザンオールスターズやARBを手掛けていた高垣健という方で、それまでフュージョン・シーンにいなかった是方のソロアルバムのキッカケがフュージョン・シーンからではなくロック・シーンだったというのも頷けるというものかもしれない。
『KOBE KOREKATA』は8ビート主体のロックテイストあふれるギターインストのアルバムで、まさに是方博邦のギターに掛けるストレートな想いと、それから特筆したいのは是方博邦のメロディメーカーぶりが伺えることだ。収録曲の9曲中7曲が是方のオリジナル(残りの二曲は同じ神戸出身のミュージシャンで現在も共演の機会がある後藤輝夫と同じく神戸出身で桑名正博&ティアドロップス時代からの盟友・難波正司の提供曲)で、どの曲もキャッチーで、是方自身によるアレンジも好い。後にオットットリオを組むカシオペアの野呂一生やスクエアの安藤正容にこの頃から引けを取らない才能を発揮。『KOBE KOREKATA』リリースから十ヶ月後の1983年12月に早くもリリースされたセカンドアルバム『MELODY CITY』でもそれは変わらず、どちらも名盤といわれる所以がそこにある。ただ、何の因果かCD化には恵まれなかった。というのは、前年にオーディオ機器としてCDプレーヤーが登場するとともに旗振り役のソニーからは早くもCDソフトがリリースされていたのだけれど、まだまだ普及するには程遠く、この二枚の製作元のビクターでは1984年ぐらいからようやくといった次第。なので、当時は二枚ともにLPとカセットのみの発売だけであった。以降もCD化への機会を逃し続ける。
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- 二作目のコンセプトも“神戸”、そしてジャケットのこの画は神戸出身の版画家・川西英の作品からで
- ジャケットのアートデザインのほうは、当時こういうことを本職にしていた安斎肇が手掛けている
是方博邦はこのビクターでの二枚のソロアルバムをリリースした後の1980年代後半に入って、本多俊之ラジオクラブ、オットットリオ、堀井勝美プロジェクトなど話題のユニットに立て続けに参加していたことで再注目されてフュージョン・シーンでは一躍人気ギタリストとなっていく。そして1990年代に入ると、是方自身によるリーダーセッションやリーダー・ユニットでも脚光を浴びるようになったのだが、当時Q盤などといった各レコード会社の旧譜の再発キャンペーンもあったにもかかわらず、ついぞ『KOBE KOREKATA』と『MELODY CITY』のCD化は適わなくて、埋もれた作品となってしまったのである。一応、この間に幾つかの曲は他のアーティストらとのコンピレーションアルバムのCDに収録されるも、アルバム自体がCD化されていないのだから、「俺が求めているのはこれじゃない!」と、いつも悔しい思いをさせられたものだった(笑)。
それがようやく、ほんとうにようやくCD化された。うれしさでいっぱいだ。ここ一週間、前述の最新アルバム『LIVE OF LIFE』とともにずっと聴いている。