3作目にして初の国内レコーディングとなった本作は、ギターの一人多重録音による一風変わった作品となった。


茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

ポニーキャニオン 1996年3月21日発売


1995年、本作のためにそれまでソロ用にストックしていた分に加え、6月から曲を書き出し、9月からレコーディング開始した。が、前二作のソロアルバムのように、それをレコーディングするためだけの集中した期間を設けたわけではなく、スケジュールに入っていたカシオペアでのライブ活動こなしていき、また週一回の東京音大の講師もこなした中での作業となった。本人曰く、多重人格で挑んだとのこと。


本作のコンセプトは、ワンマンによるギターオーケストラ。学生時代にクイーンがアルバムで3声でギターをハモらしているのに憧れたり、オットットリオでギターによるアンサンブルを体感したりと、今度は自分なりに昇華。キーボードで奏でられるアンサンブル部分をギターで一音一音重ね録りしていくという途方もない作業繰り返した。まさに前人未踏の領域に挑んだのである。

もちろん、こうして野呂がすべてのギターを演奏しているのだが、それ以外にも野呂が以前にサウンドプロデューサーつとめたSSTバンドのキーボード、松前公高がマニピュレーターとしてベースとドラムの打ち込みを担当。さらに、パーカッションにカルロス菅野、4曲のドラムにカシオペアから離脱していた時期の神保彰という少数精鋭な布陣で人力を交えた。

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2001年、カルロス菅野率いる熱帯ジャズ楽団のコンボ版として結成されたユニットに野呂が参加。ドラムには神保もいて、奇しくも『TOP SECRET』の組み合わせの再現となった。このアルバムには野呂のオリジナル曲は収録されていないが、ライブではカルロスと神保が参加していた「VIRTUAL LIFE」がレパートリーとなっていた。

ただし、レコーディングは通常とは異なる方法となった。本来ならリズム録りから始まり、そこにメロディ楽器の録りが載っていくという手段を逆流。まずはプリプロダクションで作ってきたデモテイクをもとにどんどんギターに差し替えながらすすめられた。そして松前の打ち込みによるベースとドラムで整えたところで、生の打楽器の二人が入ってグルーヴ感を出した次第。


エキセントリックとも言えるレコーディングとはうらはらに、楽曲はきわめてオーソドックスな野呂節。当時、カシオペアは大幅なメンバーチェンジから6年が経ち、そしてアルバムにして二十数枚にものぼり、カシオペアらしさとは別の展開を求めていた時期にあたっていた。野呂節=カシオペアという観点からならば、正直こちらの『TOP SECRET』のほうが強い。現在、カシオペアとソロの垣根を取り払ったISSEI NORO INSPIRITS立ち上げていて、ライブでは『TOP SECRET』からの曲もハイライトに使われ、そのライブ盤『SMASH GIG』に野呂一生のソロ名義のアルバムの中から唯一『TOP SECRET』の曲が起用されるなど、ある意味でキーポイントとなるアルバムである。


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『SMASH GIG』のほか、映像ソフト『REAL TIME』にも「TOP SECRET」と「VIRTUAL LIFE」の2曲が収録されている。過去、『TOP SECRET』からの曲はカシオペアのファンクラブ限定商品やCS放送などのライブでも観られたが、セルソフトのライブ映像で観られるものとしては唯一の作品。



さて、本作はCD EXTRAの仕様がなされている。通常のCDとして聴ける以外にもパソコンで読み込むと収録されたデータも楽しめるというアレである。それの国内第一号として各方面で話題となった。が、第一号だけに、思わぬ余波をかぶる。当初はCD Plusという規格名であったのが、レコーディングが終了した頃にCD EXTRAに改名。また、その発表もずれ込んだおかげで、1996年1月発売だったのが3月発売と二ヶ月ずれ込んだ。


この『TOP SECRET』のCD EXTRAの内容は充実していて、3曲分のMIDIデータ、レコーディング中の映像、タイトル曲「TOP SECRET」のプロモーションビデオ、そしてレコーディング中に野呂自身が一曲ごとのイメージ画を描き、都合10枚もの画が収められている。なお、このCD EXTRA部分を手がけたのは、現在はデジカメ方面で著名なプログラマーの西川和久が担当しているのが興味深い。


茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry
『TOP SECRET』発売時にプロモーション用に作成されたイメージ画のA3サイズのボード

ジャケットはモノクロでダークな世界だが、野呂が描いたイメージは極彩色な世界だった




前2作と同様にライブでの再現性を求めなかったアルバムではあったが、このアルバム発表後しばらくして、青木智仁や斉藤ノブらに誘われてセッション活動に頻繁に参加しだすようになり、「TOP SECRET」、「FALL IN THE NIGHT」、「EARLY BEGINNING」、「VIRTUAL LIFE」など多くの曲が再現されるようになる。他方で、神保彰との双頭ユニットでセミナーを中心に廻ったI&Aプロジェクトが結成され、「TOP SECRET」、「CRYSTAL」、「THE THING TO NEED」がギターマイナスワン&ドラムレスのレコーディング音源をバックに奏でられていた。2000年代以降のLIVE ISSEIシリーズでは、「TOP SECRET」と「VIRTUAL LIFE」がレパートリーとなっていて、そのまま現在のISSEI NORO INSPIRITSにも引き継がれている。





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1997年の日比谷野音で開催された「TOKYO JAM」でのオットットリオ再演をキッカケにスタジオ・レコーディングし、翌1998年にリリースされた作品。野呂の提供曲は『TOP SECRET』同様にトラディショナルな野呂節が聴ける。まさに人力で再現された『TOP SECRET』の世界とも言えよう。なお、近年のキーボードレスのオットットリオのライブでは収録曲の中から安藤作曲の「DESERT DOG」がレパートリーとなっている。

○だん吉なお美のオマケコーナー
お気楽ギグのツアー、帝国ホテルのジャズイベントや音大のオープンスクールなど諸々のソロ活動、そして来月からのCASIOPEA 3rdのライブ活動開始と、この夏は例年になく忙しい野呂さんではあるけれど、ISSEI NORO INSPIRITSも抜かりないとのこと。

8月12日(日)深夜に、昨年8月の渋谷AX公演を収録したテレ朝チャンネル『源流Jazz』がリピート放送http://www.tv-asahi.co.jp/channel/contents/music/0049/

9月16日(日)にNHK-FM公開収録 セッション2012プレゼンツ「日本のフュージョン」に出演

会場は渋谷のNHKみんなの広場 ふれあいホール、共演はT-SQUARE、DIMENSIONと豪華絢爛

入場方法の詳細は、下記のNHKの公式HPを参照

http://pid.nhk.or.jp/event/PPG0163941/index.html